風が時間を
風が時間を (12)

まことの弱法師(12)

執筆者:徳岡孝夫 2017年3月25日
タグ: 韓国 アメリカ
エリア: 北米 アジア

 1人でアメリカ本土に放り出された。しかも背中には「昨日の敵」のレッテルが、まだ付いている。

 基礎的学習と生活のコツを習ったハワイから初体験のジェット旅客機で4時間、目の下はるかに真っ赤なゴールデンゲート・ブリッジを認めた。霧の切れ目の一瞥。夢の浮橋かと思った。

 ユニオン・スクエアに近い1泊2ドルの安宿に荷物を預け、午後の町に出た。息を呑む瀟洒な町並みであった。

 住宅街の家は申し合わせたようにベイ・ウィンドーに花を山盛りにした花瓶を置き、静まり返っている。戦前の我が家の北側、端から端までがキンモクセイで、それは阪急西宮北口駅の出口を出たときから甘く匂っていた。戦後に人手に渡った家を思い、遠くサンフランシスコの町を歩きながら、私は堪らなかった。

カテゴリ: 社会 カルチャー
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執筆者プロフィール
徳岡孝夫 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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