ニューヨークは魅力に富んだ町だが、私にはシラキュース大学の受講登録日がある。妻のお産のこともある。大阪を発つとき私は出産通知の電報の宛名をシラキュース大学院の寮にしておいた。一刻も早くおめでたを知りたい。ニューヨークにいては、電報の行く先が分らないのである。
ニューヨーク見物をそこそこに切り上げ、私は毎日支局へ行った。
「日本料理でお別れをしようか」
山内大介さんはそう言って私をアキへ連れて行った。
当時のニューヨークに日本料理屋は2軒しかなかった。接待用の高価なサイトーとコロンビア大学に近いアキだけである。行って私は料理の名を忘れたが、とにかく日本食を食べた。

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