昭和11(1936)年2月26日。
鎌倉山の家であきが目を覚ますと、あたり一面に溜まる積雪が気温を一層下げているようだ。
この2月は雪ばかりだった。もう春なんて永遠に来ないのではないかと思ってしまうほど寒く、黒い雲が手を伸ばせば届きそうなところにある。こんな時は、同じように暗く厳しいミラノの冬を思い出すようにしている。そうすると少しは気が晴れるのだ。
しかし、あちらでは石造りの家にセントラルヒーティングなるものがあり、家の中全体を温められた。日本では炬燵に火鉢しかなく、こう寒いと火鉢や炬燵から離れられない。
この続きは会員登録をすると読むことができます。
「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。
フォーサイト会員の方はここからログイン