夫も自分も今が正念場だ。夫が種を蒔いてきたオペラという木がようやく育ち始めるのだ。自分の父親の縁で大きな援助者が1人増えたというのはありがたく、あきは心の中で父にそっと手を合わせた。
藤原歌劇団のパトロンとなってくれた三井高公男爵に続き、新たな救世主が現れる。銀座一丁目に「焼き物や」の店を構える「陶雅堂」の主人、日比野秀吉だ。
無類のオペラ好きであり、店の2階の倉庫を練習場として解放してくれたのだ。自らちょっとした役でオペラに登場したり、時に脚本も手掛ける。
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