朝鮮半島「対決」と「和解」の10年

執筆者:平井久志 2020年9月18日
エリア: アジア 北米
 

 月刊の国際政治経済情報誌として1990年3月に誕生した『フォーサイト』は2010年9月にWEB版として生まれ変わり、この9月で10周年を迎えました。

 これを記念し、月刊誌の時代から『フォーサイト』にて各国・地域・テーマの最先端の動きを分析し続けてきた常連筆者10名の方々に、この10年の情勢の変化を簡潔にまとめていただきました。題して「フォーサイトで辿る変遷10年」。平日正午に順次アップロードしていきます(筆者名で50音順)。

 最終回は【朝鮮半島】平井久志さんです。

 

 朝鮮半島の10年は、「対決」と「和解」の相克の10年だった。

 韓国ではこの10年に保守の李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)、進歩の文在寅(ムン・ジェイン)という3政権が続いたが、国内的には保守陣営と進歩陣営の「対決」が激化した。

 この結果、李明博、朴槿恵両大統領は教導所(刑務所)に送られ、李明博氏は保釈されたが、朴槿恵氏はまだ獄中にある。

 国内的な「対決」は進歩、保守間だけでなく、男女間、世代間、地域間、富裕層と貧困層の間でも激化し、社会が分断されている。この対立した各階層が「和解」を通じて「統合」に向かえるかが、韓国社会の切実な課題だ。

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)氏が公式に登場したのは2010年9月の第3回党代表者会で、ちょうどそれから10年の歳月が流れた。

 金正恩政権は発足初期に李英鎬(リ・ヨンホ)軍総参謀長、張成沢(チャン・ソンテク)党行政部長らを粛清、金正恩党委員長の「唯一的領導体系」という独裁を固めて、権力の中心を軍から党へ転換した。

 その次に、核ミサイル開発を進め、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を成功させた。金正恩氏は「対決」路線で独裁を強化し、国際社会を核ミサイルで威嚇したのだ。

 しかし2018年から非核化の可能性を掲げ、急に「和解」路線に転換した。南北、米朝、中朝、露朝の関係改善を試みたが、2019年2月のハノイでの米朝首脳会談の決裂で、南北、米朝は再び「対決」路線に戻った。

 南北は2018年から急速に「和解」に向かい、南北間の軍事分野の合意などの成果を得た。しかし、ハノイでの米朝首脳会談決裂の余波で、北朝鮮は韓国への不信を深めた。北朝鮮は、「同盟」にこだわり、「民族」の立場に立たない韓国との「対立」へと傾斜した。北朝鮮は、2020年6月には南北首脳会談の象徴であった開城の南北共同連絡事務所を爆破し、南北和解の雰囲気を崩壊させた。

 日韓関係も「対決」が続いた。元徴用工裁判で差し押さえられた日本企業の資産が現金化されれば、日韓両政府は対抗措置を取り、最悪とされる関係はさらに悪化するだろう。

 日朝関係はずっと「対決」の状態が続いている。米朝関係が一定の結果を生み出すまでは動かないだろう。拉致問題を含めて、安倍晋三政権下での大きな動きはなかった。

 韓国では、2022年3月の次期大統領選挙に向けた動きが活発化するだろう。進歩陣営では李洛淵(イ・ナギョン)前首相、李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事の競争が続く。人材難の保守に求心点となる人材が出るか、どうか。来年4月のソウル市長選は大統領選を占う試金石だ。

 北朝鮮は経済制裁、新型コロナウイルス、水害の三重苦の中で来年1月に第8回党大会を開催する。それまでに経済計画をまとめ、党の組織改編をどう行うか。対外的には米国との長期戦を覚悟し、経済難もあり、中国との関係強化に向かう可能性が高い。

 残念ながら、朝鮮半島をめぐる様々な問題は依然として「対立」の要素が強く、「和解」は多くの試練に直面している。

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 このとき金正恩氏が得たのは「大将」「中央委員」「党中央軍事委副委員長」の3……

 

 

 

 

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執筆者プロフィール
平井久志 ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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