裂けた明日
裂けた明日 (6)

連載小説:裂けた明日 第6回

執筆者:佐々木譲 2021年6月5日
タグ: 日本
エリア: その他
写真提供:時事
内戦により、分断された日本。相次ぐ震災と原発事故、そして例の病気の蔓延で、国民の生活は壊滅的な影響を受けていた。家族を亡くし一人暮らす男の元へ、逃亡者が現れる――。<作家の眼が、現実を鋭く照射する。近未来の分断日本を描く、スリリングなSF長篇>

自分を頼って逃げ延びてきた旧友の娘と孫。信也は二人の命を救うため、逃亡を手助けしようと心に決める。

2

 白み始めた九月の空の下を、東に向かって走った。

   阿武隈川にかかる安達ヶ橋を渡った。次は県道六二号をめざすのだ。原町二本松線とも呼ばれている道路だ。進むにつれ、道路は少しずつ山間部に入った。

 沖本信也は、ときどき助手席の酒井真智を見た。彼女は肩を強ばらせている。緊張していた。脱出についてももちろんだろうが、ほとんど見知らぬ他人同様の信也に、脱出の手助けを頼んだことを、いくらかは後悔しているのかもしれない。彼女は、信也を信用するだけの根拠は持ち合わせていないのだ。ただ、信也が自分の母親と若いころに友人だった、という話だけしか、信じる理由はなかった。信也の人柄も、戦争前の支持政党も、戦争への態度も、彼女は知らない。不安は当然だった。

カテゴリ: カルチャー
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
佐々木譲 [ささき・じょう] 1950(昭和25)年、北海道生れ。1979年「鉄騎兵、跳んだ」でオール讀物新人賞を受賞。1990(平成2)年『エトロフ発緊急電』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞を受賞。2002年『武揚伝』で新田次郎文学賞を受賞。2010年、『廃墟に乞う』で直木賞を受賞する。著書に『ベルリン飛行指令』『天下城』『笑う警官』『警官の血』『地層捜査』『沈黙法廷』『抵抗都市』『図書館の子』『降るがいい』『雪に撃つ』『帝国の弔砲』などがある。
フォーサイトのお申し込み
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top