自分を頼って逃げ延びてきた旧友の娘と孫。信也は二人の命を救うため、逃亡を手助けしようと心に決める。
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白み始めた九月の空の下を、東に向かって走った。
阿武隈川にかかる安達ヶ橋を渡った。次は県道六二号をめざすのだ。原町二本松線とも呼ばれている道路だ。進むにつれ、道路は少しずつ山間部に入った。
沖本信也は、ときどき助手席の酒井真智を見た。彼女は肩を強ばらせている。緊張していた。脱出についてももちろんだろうが、ほとんど見知らぬ他人同様の信也に、脱出の手助けを頼んだことを、いくらかは後悔しているのかもしれない。彼女は、信也を信用するだけの根拠は持ち合わせていないのだ。ただ、信也が自分の母親と若いころに友人だった、という話だけしか、信じる理由はなかった。信也の人柄も、戦争前の支持政党も、戦争への態度も、彼女は知らない。不安は当然だった。
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