裂けた明日 (13)

連載小説:裂けた明日 第13回

執筆者:佐々木譲 2021年7月24日
タグ: 日本
エリア: その他
写真提供:Metro Nashville Police Department/AFP=時事
内戦により、分断された日本。相次ぐ震災と原発事故、そして例の病気の蔓延で、国民の生活は壊滅的な影響を受けていた。家族を亡くし一人暮らす男の元へ、逃亡者が現れる――。<作家の眼が、現実を鋭く照射する。近未来の分断日本を描く、スリリングなSF長篇>

高速バスに乗った直後、外から爆発音が響く。車内の客は騒然となるが――。

[承前]

 乗客の全員が立ち上がり、リアウィンドウごしに後方を見ていた。信也も立ち上がった。

 あの商業ビルの、セール中と書かれていた大きなガラス窓のあたりで爆発があったようだ。ビルの内側での爆発だ。煙がまだあたりにただよっている。道路では車が一台ひっくり返り、反対側の車線では二台が衝突していた。そのうちの一台は爆風でガラス窓の真ん前から吹き飛ばされたのだろう。路面には細かな瓦礫が散らばっていた。倒れているひとが、三人か四人いる。もし三十秒遅くロータリーを出ていたら、このバスも爆弾で穴だらけになっていただろう。へたをしたら、吹き飛んで転がっていたかもしれない。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
佐々木譲(ささきじょう) [ささき・じょう] 1950(昭和25)年、北海道生れ。1979年「鉄騎兵、跳んだ」でオール讀物新人賞を受賞。1990(平成2)年『エトロフ発緊急電』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞を受賞。2002年『武揚伝』で新田次郎文学賞を受賞。2010年、『廃墟に乞う』で直木賞を受賞する。著書に『ベルリン飛行指令』『天下城』『笑う警官』『警官の血』『地層捜査』『沈黙法廷』『抵抗都市』『図書館の子』『降るがいい』『雪に撃つ』『帝国の弔砲』などがある。
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