コロナ禍で子どものスポーツの「当番」はどう変わったか

執筆者:宮本幸子 2022年4月11日
カテゴリ: スポーツ 社会
コロナ禍が子どもたちのスポーツの機会を奪ってしまった(写真はイメージです)
子どもがクラブチームなどでスポーツ活動を始めれば、悩ましいのは「親のサポート」をどうするかだ。特に、過重な負担を引き受けてきた母親たちは、コロナ禍で一層難しい判断を迫られている。

 小学生にとって、クラブチーム・習いごとの教室等に所属して行うスポーツ活動は、運動・スポーツの貴重な機会である。そのようなスポーツ活動には親のサポートが不可欠であり、なかには長時間の付き添いや飲食の手配・複数の子どもの送迎等を必要とするケースもある。笹川スポーツ財団では2016年度・2021年度の2回にわたり小学生の母親を対象にしたアンケート調査を実施し、こうしたサポートが母親中心になされていること、当番等の負担を理由にスポーツ活動をあきらめている家庭があることを明らかにしてきた。

 2020年以降は新型コロナウイルスが流行し、従来通りの練習ができなくなる、試合や大会が中止になる等、子どものスポーツ機会そのものに危機が訪れた。そうした中で、保護者のサポートはどのように変化したのだろうか。本稿ではコロナ禍での子どものスポーツ活動における保護者の当番・係等に関する調査結果を紹介し、課題を提示したい。

保護者の役割―コロナ対策以外は減少

 まずは、コロナ禍で保護者の役割がどのように変化したのかを検討したい。図1は、子どもがスポーツ活動をしている場合に母親自身が関わったものを尋ねた結果である。経年で明らかな変化があったのは「大会や試合時における保護者の係・当番」(4.7ポイント減)のみで、保護者会や役員、練習時の係や当番には、コロナ禍でも一定数の母親が関わってきたことがわかる。

図1 所属する団体の保護者組織(今年度関わったもの)

注)複数回答。子どもがスポーツ活動をしている母親が回答。

 ただし、具体的な保護者のサポート内容をみると、減少したものが多い。図2にあるように、保護者が活動の場に顔を出す機会、さらには「係・当番の数や種類」「係・当番に関する義務感/負担感」等をみても、「変わらない」「減った」が半々程度となり、全体的には保護者のサポートの量および負担感は、コロナ禍で軽減されたことがわかる。

図2 コロナ禍での変化

注)子どもがスポーツ活動をしている母親が回答。各項目「コロナ以前から存在しない」「わからない」を除いて集計している。

 反対に保護者のサポートとして増えたのは、コロナ対策である。調査では上記の項目とは別に、「保護者の係や当番で、コロナ禍で新たに行っていること/やめたこと」を自由記述で回答してもらった。「やめたこと」の内容は多種多様である一方で、「新たに行っていること」は具体的に記述があった99件のほぼすべてが、消毒・検温等の「コロナ対策」であった。

 まとめると、保護者がサポートをするための組織(保護者会、役員・当番等)は継続するも、コロナ対策以外の具体的なサポートは減少した、というのがコロナ禍における保護者の役割の実態である。

コロナ禍で「思い」が多様化

 さらに保護者の意見をみていくと、単に「サポートの機会や負担が減った」というだけではなく、様々な思いが交錯している様子がうかがえる。調査では全員に対して、「子どものスポーツにおける保護者の当番制を中心に、心配な点や課題」を自由記述で回答してもらった。内容に制限を設けなかったので非常に多岐にわたり、「コロナ」という単語を直接含む記述はごく一部にとどまっている。

 その中でも多かったのは、「感染が不安」「コロナ対策が大変」「コロナ禍での対応が難しい」という内容であるが、その先の意見はわかれる。一方では「コロナ禍で当番制は必要ない」「保護者があまり関わらないようにするべき」「今後も保護者どうしの交流はなくてよい」という意見がある。他方では「保護者どうしの交流がなくなり、話し相手がいない」「保護者どうしで情報交換がしにくいので困る」「練習を見せてほしい」等、コロナ禍で保護者どうしの交流が減ったことを嘆く内容もみられる。

 保護者の当番に関してはただでさえ、できる/できない、必要/不要といった対立的な議論に陥りやすいが、コロナ禍での感じ方も分化している。「感染対策が増え、その他は減った」という量的な変化だけではなく、背後の思いも多様化しているのが、コロナ禍の保護者のサポート体制といえる。

ウェイトを増す「保護者の価値観・判断」

 当番や係による保護者のサポートは、関わっている親の大変さもあるが、それ以上に「当番を理由に子どものスポーツ活動から離れる家庭がある」というもう1つの問題を生じさせている。詳細は最新(2022年公開)の報告書を参照いただきたいが、コロナ前後で数値を比較しても、子どもがスポーツ活動をしていない母親の当番等に対する拒否感は、変わらず根強いものがある。

 ただし、親の負担がスポーツ活動をしない理由になるか否かは、母親の属性や生活スタイル、家庭の経済状況等に左右されやすい。2016年度の調査を詳細に分析した際には、他の要因と比べても世帯年収の影響が強いことが明らかになっている。他にも図3のように、生活において「仕事」の優先度が高い母親は、子どものスポーツ活動をしない理由として保護者の負担をあげる比率が高く、反対に「家庭生活」の優先度が高い母親では低いといった傾向がみられる。こうした結果は、ある意味「分かりやすい」。誤解を恐れず端的に言えば、保護者に当番や係を引き受けられる余裕があるかどうか、あるいは母親が家庭を優先する/できる状況であるか否かで、子どものスポーツ機会は左右されるということである。

図3 子どものスポーツ活動をしない理由(母親の生活における優先度別)

注)「とてもあてはまる」の%。子どもがスポーツ活動をしていない母親が回答。ほかにも「地域・個人の生活を優先している」等があるが割愛している。

 一方、図3で「新型コロナウイルスの感染が心配だから」をみると、母親の生活スタイルとの関連は弱い(図表は省略しているが、その他の属性・経済状況との関連もほぼみられない)。「家庭優先」の母親であっても「新型コロナウイルスの感染が心配だから」スポーツ活動をしないケースが一定数あるということは、今までなら当番等を理由にせずスポーツ活動に参加できていたものの、コロナを理由に遠ざかる人たちがいる可能性を示唆する。コロナ禍ではこれまで以上に、子ども本人ではなく保護者の価値観・判断によって、子どものスポーツ機会が左右される状況であると考えられる。

サポートの「母親頼み」と「過剰」を見直す

 以上、(1)コロナ禍で当番そのものの負担は軽減 (2)コロナ禍の当番に対する保護者の思いは多様化 (3)スポーツ活動をしない理由として当番への負担感は根強く、加えてコロナ不安が一定数存在する、という実態を調査結果から確認した。

 このような状況下で、今後の子どものスポーツにおける保護者のサポートをどのように考えたらよいのだろうか。家庭の状況が関わるということは、保護者世代の働き方や経済状況、ジェンダーの平等といった複雑な問題が絡み合うが、ここではスポーツ活動の場で少しでも解決に寄与する視点を示したい。

 第一に、子どものスポーツ活動をささえてきたのは母親であるという事実を認識することである。本稿では保護者の当番・係に特化した調査結果を紹介したが、家庭内でのサポート(弁当作り、送迎等)も母親中心に担う構造が続いている。「サポート」と言えば聞こえはいいが、具体的に届く声には「母親自身の仕事を減らした」「人間関係に悩んだ」等、深刻なものも多い。必ずしも積極的な母親ばかりではなく、葛藤や悩みを乗り越えて引き受けてきた母親たちがいるという事実に、スポーツの関係者はまず目を向けるべきである。

 第二に、表(おもて)にあがらない声も含めて、子どものスポーツをささえる母親たちの多様な意見を意識する必要がある。コロナに関しても「子どもや保護者の間で感染を広げないよう慎重になりたい」「あらゆる活動に制限がかかる年代だからこそスポーツぐらい思い切りやらせたい」という考え方があり、双方の意見は相容れないことはあれども、どちらも決して間違いではない。母親どうしの閉鎖的な関係性のなかでは、通常であっても率直な意見を言いづらいことがある。そこにコロナ禍での価値観の違いが加わって、これまで以上に、大変な親が「大変」とは声に出しづらい可能性がある。どちらの考え方も認め、スポーツ関係者からは、感染対策と子どものスポーツに関する適切な情報を引き続き提供していくことが求められるだろう。

 第三に、そして最も重要なことは、長い間母親たちのサポートに頼っていた子どものスポーツ活動のあり方を変える、という点である。コロナ禍を挟んだ約5年、母親がサポートをし続ける構造、それを負担に感じてスポーツ活動から離れる家庭がある点は、変わっていない。子どものスポーツ活動における過剰なサポートの見直し、活動時間や試合への参加方法の検討、母親以外の関与の増加――それらの地道な変化の積み重ねが、コロナ禍においても子どものスポーツ機会を保障することにつながっていくと考える。

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執筆者プロフィール
宮本幸子(みやもとさちこ) 笹川スポーツ財団政策ディレクター。教育関連研究所を経て、2016年笹川スポーツ財団に。主に、子ども・保護者・教員を対象とした調査研究を行う。2022年4月より現職。
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