サウジアラビアの「産油国パワー」が抱える複雑な課題

執筆者:小山 堅 2022年8月10日
エリア: 中東
「小幅増産」以外の選択肢をとるのは難しかったのも事実[右=ムハンマド皇太子、中央=バイデン大統領、左=バーレーンのハマド国王 7月16日](C)AFP=時事
国際原油価格を左右し得る世界最大の余剰生産能力は、一方で「巨額の開発投資をした設備を敢えて活用しない」という、他国にないコスト負担と表裏一体の関係にある。バイデン米大統領の中東歴訪に対するOPECプラスの「小幅増産」回答が注目されたが、サウジ自身の国家財政状況や世界経済の減速観測、あるいはロシアもOPECプラスのメンバーであることを考慮すれば、問題は一筋縄では行かない複雑さを持っている。

 ウクライナ危機以降の国際エネルギー情勢不安定化で、原油価格高騰が再び世界の大きな関心を集めるようになった。石油輸出国機構(OPEC)およびロシアなどの一部の非OPEC産油国が協力する「OPECプラス」産油国グループの生産調整政策の決定がニュースのヘッドラインを飾る機会も多くなっている。

 中でもOPECの盟主、サウジアラビアの政策動向への関心は高い。7月中旬には米国ジョー・バイデン大統領がサウジアラビアなど中東を歴訪し、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子と会談、両国の関係改善とともに原油増産を要請した。この異例ともいえる増産要請の後、OPECプラスは8月3日の会合で9月以降は日量10万バレル(B/D)の増産を決定した。サウジアラビアの戦略判断がこの小幅増産決定の背景要因として重要な役割を果たしたであろうことは想像に難くない。本稿では、サウジアラビアの「産油国パワー」を巡る様々な問題を取り上げ、掘り下げてみたい。

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執筆者プロフィール
小山 堅(こやまけん) 日本エネルギー経済研究所専務理事・首席研究員。早稲田大学大学院経済学修士修了後、1986年日本エネルギー経済研究所入所、英ダンディ大学にて博士号取得。研究分野は国際石油・エネルギー情勢の分析、アジア・太平洋地域のエネルギー市場・政策動向の分析、エネルギー安全保障問題。政府のエネルギー関連審議会委員などを歴任。2013年から東京大公共政策大学院客員教授。2017年から東京工業大学科学技術創成研究院特任教授。主な著書に『中東とISの地政学 イスラーム、アメリカ、ロシアから読む21世紀』(共著、朝日新聞出版)、『国際エネルギー情勢と日本』(共著、エネルギーフォーラム新書)など。
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