「飲酒はコスパが悪い」? 若い世代に急増する、あえて飲まない「ソバーキュリアス」

執筆者:久我尚子 2022年9月3日
タグ: 日本
エリア: アジア
あえてアルコールを飲まない「ソバーキュリアス」と呼ばれるライフスタイルが、昨今のアルコール市場に影響を及ぼしている  (C)DisobeyArt - stock.adobe.com
アルコールは飲めるが「あえて飲まない」「飲むのをやめた」人たちの存在に注目が集まっている。「ソバーキュリアス」と呼ばれるこの新たなライフスタイルや、コロナ禍の家飲みで選ばれるようになった酒類など、日本人の飲酒生活のトレンドを探る。

 男性の「飲酒習慣率」が大幅低下

 「ソバーキュリアス」という言葉をご存じだろうか。自分の身体や心の健康を考えて、あえてアルコールを飲まない、あるいは、飲むとしても少量だけを楽しむライフスタイルのことで、数年前から欧米の若者を中心に広がっている。日本国内では2021年に刊行された『飲まない生き方 ソバーキュリアス Sober Curious』(ルビー・ウォリントン著、永井 二菜翻訳、方丈社、欧米では2018年に出版)が話題を呼んでいる。

 日本でも「若者のアルコール離れ」が言われて久しいが、あらためて日本人の飲酒の状況を統計データで確認したい。厚生労働省「国民健康・栄養調査」では、週に3日以上、飲酒日1日当たり1合以上飲酒する者を飲酒習慣がある者と定義し、長年、飲酒習慣率を捉えている。この飲酒習慣率について、1999年と2019年を比べると、20代や30代では男女とも低下しており、確かに若者のアルコール離れが進んでいる(図1)。ただし、男性では全ての年代で飲酒習慣率は低下しており、アルコール離れは中高年でも進んでいる。この背景には、景気低迷で会食の機会などが減ったこと、また、2008年から、40歳~74歳を対象に、いわゆるメタボ健診(特定健康診査・特定保健指導)が始まり、健康志向が高まった影響などがあるのだろう。

 

  一方、女性では、飲酒習慣率は多い年代でも1割台で男性と比べて格段に低いとはいえ、20年前と比べて40~60代で上昇していることが興味深い。その結果、2019年では、40~50代の女性の飲酒習慣率は20代の男性をやや上回るようになっている。今の40~50代の女性は働く人が増えてきた世代であり、男性と同様に会食の機会などが増えたこと、また、ひと昔前と比べてアルコールを楽しむ女性に対して世間の見方が和らいだこと、それらに伴って、女性が立ち寄りやすい飲食店や女性が手に取りやすい発泡酒などの商品開発も進んだ影響などがあるのだろう。

 とはいえ、若者や男性では全体的に飲酒習慣率が低下することで、あえてアルコールを飲まないソバーキュリアスの存在感は増している。

 同調査で飲酒の頻度をたずねた結果を見ると、アルコールを飲めないわけではないが、「ほとんど飲まない」・「やめた」と回答するソバーキュリアスと見られる層は、若いほど多く、20代では男女とも約27%を占める(図2)。さらに、これに「飲まない(飲めない)」との回答をあわせると、今の20代の男性の約半数、女性の約6割は日頃、アルコールから離れた生活を送っていることになる。

 

  なぜ若い世代ほどアルコール離れが進行しているのだろうか。その解としては、リスク回避志向の高まりや娯楽の多様化といった影響があげられる。筆者は日頃、世代による消費行動や価値観の違いを分析している1のだが、景気低迷の中で生まれ育った世代はリスク回避志向が強く、慎重な消費態度を示す傾向がある。また、物心ついた頃からインターネットが普及していたデジタルネイティブ世代は、大量の情報を取捨選択しながら価値観を形成してきたために、比較検討志向が強く、コストパフォーマンスを重視する傾向も強い。

 ネットやスマートフォン、ゲームなどが普及し、娯楽が多様化する中で、若者にとって飲酒はコストパフォーマンスの悪い娯楽と捉えられるようになったのかもしれない。酔って楽しい気分になるというメリットに対して、健康への悪影響や費やされる時間、費用などのコスト、酔うことによる失敗行動のリスクなどのデメリットが上回ると判断されているのではないだろうか。さらに、現在はSNSなどを介して、いつでも友人とつながることができるため、実際に会って飲んだりしなくても、コミュニケーションがある程度できてしまうことも影響しているだろう。

コロナ禍で増す「家飲み」需要

 一方で、以上の分析は、いずれも新型コロナ禍前のデータに基づくものだ。感染拡大状況下で外出が制限され 、飲食店には時短営業や酒類の提供禁止なども要請された中で、飲酒状況 にはどのような影響があったのだろうか。先の「国民健康・栄養調査」は、2020年以降、新型コロナ禍の影響で中止されているため、足元の飲酒習慣率や頻度のデータは得られない。そのため国税庁の統計から国内のアルコール消費数量全体の状況を見ると、2015年以降では、やはり2019年から2020年にかけて比較的大きく減少している(図3)。

 

 なお、アルコール消費数量の推移を振り返ると、1996年をピークに減少傾向にあり、消費されるアルコールの種類も変化している。1990年代半ばまではビールの消費数量が全体の7割を超えて圧倒的に多かったが、2000年代初頭は税率の変更に伴ってビールの代わりに発泡酒が増え、近年ではリキュールが増えるなど多様化が進んでいる。「とりあえずビール!」で始まる飲み会文化は姿を消し、それぞれが好きなものを、好きな量だけ(少しだけ)飲むというスタイルが主流になっている様子がデータからうかがえる。

 さて、コロナ禍での状況について、もう少し詳しく見ていきたい。毎月実施される、総務省「家計調査」にて二人以上世帯の支出を見ると、2020年3月以降、外食の「飲酒代」はコロナ禍前の2019年と比べて実質増減率が下回る状況が続くが、家飲み用途の「酒類」はコロナ禍前を上回る状況が続いている(図4)。

 

 一方、金額で見ると、外飲みの減少は、家飲みの増加で補填されず、世帯あたりの飲酒関連の支出額は減少している。コロナ禍前の2019年では、二人以上世帯の年間支出額は、飲酒代1万9892円+酒類4万721円=6万613円であったが、2020年では同9405円+同4万6276円=5万5681円(2019年より▲4932円)、2021年では同4776円+同4万5230円=5万6円(2020年より▲5675円) へと減少している。

 なお、世帯主の年齢によらず、コロナ禍で家飲みの「酒類」の支出額は増えているが、30~50代で増加幅が大きい傾向がある。つまり、これまで会社帰りの飲み会といった外飲みが多かった年代ほど、家飲み支出は増えている。

 また、家飲みが増えたことで、「酒類」の内訳にも変化が見られる。コロナ禍前から支出額の多い「ビール」や「発泡酒・ビール風アルコール飲料」をはじめ、種類によらず支出額は増えているのだが、特に「ウイスキー」や「チューハイ・カクテル」、「焼酎」で増加幅が大きいほか、若い世帯ほど「ウイスキー」や「清酒」が、高齢世帯で「ワイン」の増加幅が大きい傾向がある2。つまり、コロナ禍で、ビールや発泡酒など以前から家で日常的に飲んでいたアルコールに加えて、以前は、ウイスキーはバーで、日本酒は専門店でというように、主に外飲みで楽しんでいた種類のアルコールも家で楽しむようになっているのだろう。

コロナ禍とソバーキュリアス

 一方で、近年のトレンドの変遷は、ソバーキュリアスが増えていることに起因するが、ノンアルコール飲料の飲まれ方にも変化があるようだ。

 これまでのノンアルコール飲料は、運転前や休肝日、妊娠中・授乳中など、主に飲酒を好む人が飲めない時の需要を想定したもので、パッケージには「アルコール分 0.00%」と印字され、アルコールを徹底的に除いていることに価値が置かれていた。

 しかし最近では、むしろアルコールを微量含んでいることに価値が置かれた「微アルコール」飲料が注目を集めている。これまでもアルコール度数3%といった低アルコール飲料は存在したが、微アルコール飲料は0.5%など1%未満に抑えられているため、税法上は清涼飲料水と同じ扱いになる。これは、まさにソバーキュリアスのように、酔わない程度に楽しみたい、あるいは、体質的に弱いがアルコール気分を楽しみたいといった、これまで手つかずだった需要に合致する。また、コロナ禍でテレワークが浸透したが、微アルコールはテレワーク中の残業タイムなどの気分転換にも良いのかもしれない。

新しいライフスタイルに「アルコール」の居場所を見出す

 さて、今後だが、若い世代ほどアルコール離れが進行する中では、やはりソバーキュリアスのように飲んだとしても薄く飲む層が増えていくのだろう。また、少子高齢化の更なる進行によって、飲酒量が多い年代の人口自体が減少していく。企業としては、アルコールへの関心が高くない層に向けて、いかに「自分ごと」と感じてもらえるような商品を訴求できるかが重要だ。そのためには、アルコールという入口から考えるのではなく、ライフスタイルのどこにアルコールがはまるのかという視点が必要だろう。それは低アルコール商品のラインナップの拡充や新たな利用シーンの創出なのかもしれないし、商品のボトルやパッケージのデザインにあるのかもしれない。

 昔ながらの酒好きには少々寂しく感じられるかもしれないが、アルコールに強い人も弱い人も、酔って楽しみたい人も酔わずに楽しみたい人も、それぞれにとって無理なく好ましい形でアルコールと付き合うことのできる、「アルコール・ダイバーシティ」時代が到来したと考えてはどうだろうか。多様な価値観を尊重することはサステナビリティ、地球環境や社会の持続可能性を高めていくという近年の流れにも沿うものだ。

脚注

1. 久我尚子『若者は本当にお金がないのか? 統計データが語る意外な真実』(光文社、2014)など

2. 久我尚子「コロナ禍で増す『家飲み』需要」、ニッセイ基礎研レター(2021/4/28)に詳しい。

カテゴリ: 社会 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
久我尚子 くが・なおこ 株式会社NTTドコモを経て、2010年よりニッセイ基礎研究所。2021年7月より現職。専門は消費者行動、心理統計。統計を使って若者や女性、子育て世帯などを中心に暮らしや価値観の変化の変化を読み解いている。著書に『若者は本当にお金がないのか?~統計データが語る意外な真実』(光文社新書、2014)など。内閣府や総務省、経済産業省、東京都の統計関連などの委員を務める。
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