【特別コラム】近代という「神話」の終焉(7・最終回)
神話のはがれ落ちた世界で生起する歴史

執筆者:内山節 2023年1月9日
エリア: ヨーロッパ
 

 現在もなお戦争がつづいているロシアによるウクライナへの侵攻は、私たちにいくつかのことを教えている。そのひとつは、国家、国民、民族というものが、その時代の政治的関係のなかから生まれ、たえず再創造されていく動的なものだということだった。

不明確な「スラブ人」という概念

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、スラブ系ロシア人、ベラルーシ人、ウクライナ人は同じスラブ人、もしくはスラブ民族だと考えているようである。だからこの3カ国は一体であるべきだ、と。

 ところが実際には、スラブ人という生物学的な意味での人種は存在しない。それはスラブ語系の言語を使う人たちという意味である。西ヨーロッパではラテン語系の言語を使う人々が多いが、だからといってラテン人という言葉やラテン人はひとつの国家であるべきだという人はほとんどいないだろう。

カテゴリ: カルチャー 社会 政治
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執筆者プロフィール
内山節(うちやまたかし) 哲学者。1950年、東京生まれ。群馬県上野村と東京を往復しながら暮らしている。著書に『「里」という思想』(新潮選書)、『新・幸福論』(新潮選書)、『日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか』(講談社現代新書)、『修験道という生き方』(共著、新潮選書)、『いのちの場所』(岩波書店)、『内山節著作集』(全15巻、農山漁村文化協会)など多数。
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