「陰謀論」にハマらないようにするにはコツがある

執筆者:秦正樹 2023年1月3日
2021年1月6日に起きたアメリカ連邦議会議事堂襲撃事件で、ワシントンDCの上院会議室内にて叫ぶ抗議者。(C)AFP=時事
陰謀論者を「一部の荒唐無稽な人々」と片付けることはできない。身近な人、あるいは自分自身もその術中に陥る危険は十分にあるのだ。「政治との関わり方」にはコツがあると、話題の書『陰謀論』の著者は言う。

 昨今、全世界的に「陰謀論」の蔓延が大きな社会問題となっている。2021年1月に起きた米国連邦議会議事堂襲撃事件の主犯格がQアノン陰謀論の信奉者であったことも話題となった。日本でも、新型コロナウイルスとそのワクチンに関する陰謀論や、在日コリアンに対する排外主義的な陰謀論などがソーシャルメディア上で多く観察されている。

 こうした背景を踏まえ、拙著『陰謀論―民主主義を揺るがすメカニズム』では日本を対象として、どのような人が、なぜ陰謀論を信じているのかについて、実証的に明らかにした。

どのような人が陰謀論を信じているのか

 未読の読者のために、その内容を簡単に紹介しておきたい。本書では、日本で見られる様々な陰謀論を取り上げて、それがどのようなメカニズムで、どのような人が信じているのかを、サーベイ実験という統計的な手法を用いて検討した。結論だけを整理すると、大きく分けて以下3点となる。

1. Twitterの利用頻度の多さは、(意外にも)陰謀論的信念(どの程度、陰謀論を信じているかを示す概念)の低さと関連しているが、同時に、「私は冷静なので陰謀論に騙されることはないが、私以外の多くの人は騙されやすい」と考えやすくなること

2. 保守的志向を持つ者・リベラルな野党支持者のいずれも、政治的イデオロギーや党派性に親和的な陰謀論を信じる傾向にあること

3. 政治に対する関心や知識が高い人ほど、陰謀論を受容しやすい傾向にある一方で、プライベート(私的)なことに没頭している人ほど、陰謀論を信じないこと

 こうした分析結果やエビデンスにもとづくと、政治的な意見や関心を強く持つことは、陰謀論的情報に接触する可能性を高め、さらにそうした荒唐無稽な言説を信じる原動力になってしまう。その上で陰謀論に踊らされないためには、「政治への関心や意見を持つことは“そこそこ”に」という姿勢が重要であると結論できる。敢えて抽象的な表現に留めたのは、読者自身に「望ましい政治との向き合い方はどのようなものか」を考えてもらいたいという願いを込めたからだ。

 しかし一方で、「そこそこ」という表現は抽象的であり、具体的にどのような形で政治と接すればよいのか、“そこそこ”の部分も、もう少し詳しく説明してほしかったといった意見も読者から多く寄せられた。

 そこで本稿では、書籍で明らかにした内容の「その先」について検討したい。より具体的には、私たちは、どのような形で「政治」との関係を持つべきなのかについて、筆者が実施した調査データの追加的な分析を通じて考えてみよう。

「模範的市民」こそ陰謀論にハマる?

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カテゴリ: 社会
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執筆者プロフィール
秦正樹(はたまさき) 1988年生まれ。2016年、神戸大学大学院法学研究科(政治学)博士課程後期課程修了。博士号取得論文:「政治関心の形成メカニズム――人は「政治」といかに向きあうか」。神戸大学学術研究員、関西大学非常勤研究員、北九州市立大学講師などを経て、京都府立大学公共政策学部公共政策学科准教授。著書に『陰謀論 民主主義を揺るがすメカニズム』(中公新書)。
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