4月11日、イタリアのジョルジャ・メローニ政権は急増する移民流入に際し、過去の自然災害やコロナ対応でも行われたように、全土に緊急事態を宣言した。期限は6カ月間で、これにより、政府の権限は強化され、既存の法規を超えた対応が可能になる¹。もちろん、無原則ではなく、政府による対応の内容は政令に定められねばならず、対応が長期に及ぶ場合は政令の法律化も必要になる。
政府は、この緊急事態の責任者(コミッショナー)にシチリア出身で右派に近い前トリエステ県警察長官のヴァレリオ・ヴァレンティを任命し²、さらに中央政府と同じ右派が政権を握る15州の同意を得たが、左派政権の4州と1自治州はこれを拒否した。左派は、右派が「移民がイタリアを襲う」というイメージで緊急性を煽り、一層の移民規制強化の口実にしており、受け入れ態勢も関係国への働きかけも不十分だと批判している。このような批判を可能にしているには、「非常事態宣言」の発表にも関わらず、責任者の任命以外に26日現在で官報に記載された関連文書はなく、その任務の詳細も示されていないからである³。
前年同期の4倍に急増した移民
2023年に入り、移民が急増しているのは事実で、1月から3月までに海上から入国した移民は、2万7453人で前年同期の6832人の4倍となっている⁴。2022年の年間合計が10万5131人であり、例年夏季に流入が増えることを考えると、2023年は前年を大きく上回ることが予想される。さらに、リビアには地中海を渡ってイタリアに入ろうとしている潜在的移民が68万5000人いるとの推計もあり⁵、2014年から2016年までの3年間に年間十数万人の移民が続いた時期以来の大きな波となっている。
こうした増加の背景には、コロナ禍で抑えられていた移民の流れが世界各地で復活し、EU域内の労働力不足から移民のニーズが増加している(メローニ政権も2013年の労働目的の合法的移民の受け入れ枠を8万2千人に増加させた)こともあるが、2023年に入って、イタリアには特に……
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