今年はイタリアがG7の議長国であり、政権発足から間もなく2年となるジョルジャ・メローニ首相の手腕も注目されている。政権発足当初こそネオ・ファシストの系譜を引く政治家として警戒されたものの、現在は現実的でプラクティカルな政治家としての評価を固めつつある。6月の欧州議会選挙では、自らが率いる右派政党「イタリアの同胞」(FDI)が2022年の総選挙(得票率26.0%)を上回る得票率28.8%で国内第1党をキープし、分裂した左派野党を尻目に、右派連立政権の政策は着々と実行されている。
ただし、右派の躍進によって、欧州議会で中道右派・左派の親欧州会派の合計が過半数を割れば、メローニが中道右派と急進右派を結びつけるキャスティング・ヴォートを握る存在になるのではないかとの選挙前のメディアの見立ては外れた。リベラル派が後退しつつも左派が予想以上に善戦したため、親欧州派の過半数割れはなく、ウルズラ・フォンデアライエン欧州委員会委員長はこれまでの主要3派から環境・自治派まで支持を広げ、欧州議会で前回以上の得票で再選された。
EU(欧州連合)主要人事について話し合う事前交渉に呼ばれなかったことを理由に、メローニは欧州理事会でフォンデアライエン続投承認を棄権した。しかし、イタリアが権威主義的な傾向を持つ国々と組んで反EU連合を作るなどと考えるのは、非現実的である。今回の欧州議会選挙を機に、メローニがリーダーである欧州保守改革派からスペインの「VOX」が抜けた。イタリアの「同盟」やフランスの「国民連合」が属する急進右派の「アイデンティティーと民主主義」(ID)から「ドイツのための選択肢」(AfD)が抜け、IDはハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相やVOXと組んで新たな会派「愛国者の欧州」を作った。このように、右派はメディアが懸念するほど一丸でもない。
メローニがオルバンなどと会談しても、それはお互いの国家主権重視のイメージを他の国々への牽制として利用しあうものであり、メローニがオルバンを、そしてオルバンがメローニをコントロールできるわけではない。
「一人勝ち」の内政構図は変わらず
外交同様に国内政治においても、メローニは世論へのアピールを巧みに利用する政権運営で優位を維持している。欧州議会選挙では、FDIの支持は広がった一方で、同じ右派連合の「同盟」は大きく後退、フォルツァ・イタリアは伸び悩んだ。むしろ女性党首のエリー・シュライン書記長が率いる民主党が、欧州全体に社民勢力の停滞が広がるなかで盛り返した。国政選挙で不振が続いていた最左派で反戦派の「緑と左翼」連合も、ロシア・ウクライナ戦争の長期化を嫌う人々に支持を得て伸びた。
メローニ政権ができる前の議会で第1党だった五つ星運動にかつての勢いはなく、民主党を離れ新党を作っていたマッテオ・レンツィ元首相やカルロ・カレンダ元経済発展相のような親欧州の左派改革派は議席を得られなかった。右派与党はFDIに依存し、左派野党はまとまらず、メローニの一人勝ちと言ってもよい。
「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。