【Analysis】ウクライナが「2014年のクリミア」を模倣する「ベルゴロド襲撃」の戦略的意味

2023年5月28日
エリア: ヨーロッパ
ロシア・ベルゴロド州知事が通信アプリ「テレグラム」で公開した、ウクライナに破壊された建物とされる画像[2023年5月23日公開](C)Reuters
ウクライナの大規模反攻が準備されている中、5月22日と23日の2日間にわたって発生したウクライナ側からロシア西部国境地帯への「破壊工作員」侵入には、ロシアに前線の兵力展開を変えさせる圧力と心理的打撃を与える可能性がある。また、事態には無関係と主張するウクライナ政府のレトリックが、2014年のクリミア併合の際にロシアが使ったものを意図的に模倣しているように見えることも注目だ。

 

[ロンドン/キエフ発(ロイター)]今回の侵入は、戦闘の震源地であるウクライナ東部ドンバス地方から遠く離れた、北部ハリコフ地方の前線から約160キロの地点で行われた。反プーチン政権を掲げるロシア人の2つの軍事組織、「ロシア義勇兵軍団(RVC)」と「自由ロシア軍」が攻撃を認める声明を出している。ロシアは23日、前日にベルゴロド州西部を装甲車で攻撃した過激派を撃退し、70人以上の「ウクライナ民族主義者」を殺害、残りをウクライナに押し戻したと発表した。

「ロシア義勇兵軍団」と「自由ロシア軍」はロシアの全面侵攻開始時に設立され、ウクライナとともに自国と戦い、ウラジーミル・プーチン大統領を倒したいと考えるロシア人志願兵を集めたものだ。ロンドンに拠点を置くコンサルタント会社Mayak Intelligenceの代表で、ロシア軍に関するいくつかの本の著者であるマーク・ガレオッティ氏によれば、2つのグループはリベラル派や無政府主義者からネオナチまで含む、反クレムリンのロシア人で構成されている。

 ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領府長官顧問は同政府の関与を否定しているものの、15カ月前にロシアによる侵攻が始まって以来、ウクライナ側からの国境を越えた襲撃として最大である今回の動きは、領土奪還の準備を進めるウクライナ軍とほぼ確実に連携しているとみられる。ガレオッティ氏は「彼らは少しでもプーチン政権を失墜に導きたいと考えている。しかし同時に、こうした組織は独立した勢力ではないことを認識する必要がある。彼らはウクライナ軍情報部のコントロール下にある」と指摘した。

「ウクライナ軍は、ロシア軍をさまざまな方向に引きつけ、隙を作ろうとしている。ロシア側は援軍を送らざるを得ない」と分析するのは、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のニール・メルビン氏だ。ウクライナの大規模反攻に対して、ロシアはウクライナ東部と南部に広大な要塞を建設し、準備を整えている。

 米国は、ウクライナによるロシア領土への攻撃を「許可も奨励も」しないが、軍事作戦をどのように行うかはウクライナ自身が決めるべきとのスタンスだ。ここ数カ月、ロシアへの同様の侵攻がいくつか発生しており、今回のものはこれまでで最大規模だったが、前線での戦闘に比べればまだ小さい。

2014年からの木霊?

「自由ロシア軍」政治部門のスポークスマンであるアレクセイ・バラノフスキー氏はロイターに対し、作戦に参加した部隊の数は公表できないが、軍団には合計で4つの大隊があると述べた。また、今回の侵入で大きな損失があったことを否定し、多数の死傷者が出たというロシアの報道を偽情報と断じている。

 バラノフスキー氏によれば、「自由ロシア軍」はウクライナの国際軍団の一部であり、したがって同国の軍隊の一部であることを認めるものの、今回の侵入についてウクライナ当局との連携は否定した。「武力によるプーチン政権打倒という主目的の第一歩である。我々にとって他に代替となる選択肢はない」と同氏は述べた。

 前出のガレオッティ氏は、今回の侵入は、ウクライナの大規模反攻に先立って行われた戦場「形成」作戦のように見えると言う。……

カテゴリ: 軍事・防衛
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