米共和党こぞって「トランプ主義」の大転換:主流派も「労働者層重視」を鮮明化

執筆者:岩田太郎 2023年6月14日
エリア: 北米
繁栄から取り残された人たちに、「この国はあなたたちが主人公だ」と囁きかける[ニューハンプシャー州マンチェスターで演説するトランプ氏=2023年4月27日](C)REUTERS/Brian Snyder
CNN上席政治アナリストのロナルド・ブラウンスタイン氏は、共和党の支持層が「高齢で貧しい白人労働者になった」と指摘する。保守系有力シンクタンクのヘリテージ財団が労働者保護を提言するなど、いまやトランプ主義の踏襲は共和党主流派にとってもメインテーマだ。

 2024年の大統領選挙に向けて、民主党のジョー・バイデン現大統領や共和党のドナルド・トランプ前大統領、「トランプではないトランプ」をウリにするフロリダ州のロン・デサンティス知事らが次々と党内の大統領指名争いに立候補している。

 明確な勝者がおらず、痛み分けの結果となった2022年11月の中間選挙では、両党とも決定的な数の労働者層の票を獲得できなかった。そのため、各陣営は今回の局面で労働者にアピールする政策を打ち出している。

 本稿では共和党に関して、トランプ派のみならず、資本家寄りと見られてきた主流派までもが「労働者層の党である共和党」を掲げるようになった経緯について、①世論調査における民主党と共和党の階級的イメージ、②大統領選候補者たちの労働者層へのメッセージ、そして③共和党主流派と目されるシンクタンクであるヘリテージ財団の労働者層重視への転換から、大転換期にある米政治の構図を読み解く。

米政治史で繰り返されてきた「政党のねじれ」

 米国の政治史においては、共和党と民主党の支持層が反転する前例があった。まず、1860年代に共和党のエイブラハム・リンカーン大統領率いる北軍がリベラル的な思想を持つ北部の資本家・工場労働者・農民・黒人の支持を得て、保守的な南部奴隷主の党であった民主党勢力が率いる南軍と戦い、これに勝利する。

 ところが、1930年代の世界恐慌を経て、従来は保守政党であったはずの民主党がフランクリン・D・ルーズベルトの指導の下、経済規制や社会福祉事業などリベラル的な政策を実現させて労働者層の強い支持を得るようになる。

 1950年代から1960年代の公民権運動の時代になると、人種間平等などによりさらにリベラル化する民主党が黒人の支持を得た。一方で、民主党を支持していた白人保守層が共和党に流れ、従来の政党支持構図が逆転するねじれが生じた。

 翻って、2000年代と2010年代になると、民主党がグローバル化の恩恵を受ける大卒プロフェッショナルや富裕層に支持されるようになる一方で、経済の繁栄から取り残された労働者層が共和党支持に回るという再逆転が進行する。そのねじれが如実に表れたのが、2016年の大統領選挙において、さびれたラストベルト工業地帯の労働者層の支持を得たトランプ前大統領の当選である。

 この傾向は2020年代になって弱まるどころか、さらに進行している。ユタ州のモルモン教系ニュースサイトのデザレット・ニュースがマーケット調査企業のハリスXに依頼して、全米1981人の有権者登録を行った成人を対象として4月に実施した世論調査では、ねじれがより鮮明化している。

 同調査は、回答者に自分を下から上の順番に、「下層階級」「働く貧困層」「労働者層」「下位中産階級」「中産階級」「上位中産階級」「上層階級」の7つのカテゴリーのいずれかに分類してもらい、その上で支持政党を聞き出すという他の世論調査にない特徴を持っており、階級性と支持政党の関連がわかりやすい設計になっている。

自分を労働者層に分類する米有権者のうち、40%が共和党支持、36%が民主党支持という結果となったデザレット・ニュースとハリスXの世論調査(出典: Deseret News

 それによると、全回答者の内、336人が自分を労働者層だと自己申告した。この層に対して「自己の利益やものの見方を最もよく代弁してくれる政党はどれか」と聞いたところ、40%が共和党、36%が民主党、7%が両方、17%がどちらでもないと回答した。この調査の誤差は±2.2%ポイントであり、それを考慮しても労働者層における共和党支持がわずかに民主党支持を上回っていることがわかる。

 一方で、上位中産階級における民主党支持は45%、共和党支持が30%であり、上層階級に至っては民主党支持が56%に達した一方で、共和党支持は28%に留まった。民主党が富裕層の党になっていることが、明確である。

 事実、米リベラル派の理論誌「ジ・アトランティック」の編集委員で、米CNNの上席政治アナリストも務めるロナルド・ブラウンスタイン氏が3月に発表した論考によれば、有権者の収入の中央値が、全国平均である年収6万5000ドル(約908万円)未満の下院選挙区237議席の内、共和党が152議席を押さえている。対する民主党は、有権者の収入の中央値が全国平均を超える下院選挙区の198議席の内、128議席を押さえているといった具合だ。

 加えて、同じくピューの2023年のまとめでは、支持政党別の米経済に対する見方に有意の差があることも判明している。

ピュー・リサーチセンターの世論調査によれば、「米経済は大変よい」あるいは「よい」と回答した民主党支持者は28%であったのに対し、共和党支持者ではわずか10%と、3倍近い開きがある(出典: Pew Research Center

 同社が3月下旬から4月上旬にかけて5079名の成人を対象に行った調査において、「米経済は大変よい」あるいは「よい」と回答した民主党支持者は28%であったのに対し、共和党支持者ではわずか10%と、3倍近い開きがある。

 ピューは、「(政権交代があった)2021年初頭から、共和党支持者は一貫して民主党支持者よりも『この先1年で経済は悪化する』と回答する率が高い」と指摘する。こうした世論調査の結果には、支持政党が政権の座に就いているか否かという要因が大きく影響していると思われるが、生活が苦しい労働者層に共和党支持者が多く、余裕のある上流層に民主党支持者が多いことと無関係ではないかも知れない。

民主党も「文化戦争」ではなく「日常生活」

 前述のブラウンスタイン氏は、「共和党の支持層は疑う余地もなく、より高齢で貧しい白人労働者になった。バイデン大統領は……

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
岩田太郎(いわたたろう) 在米ジャーナリスト 米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』『ダイヤモンド・チェーンストア』などの紙媒体に発表する一方、『ビジネス+IT』『ドットワールド』や『Japan In-Depth』などウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、IT最先端トレンド・金融・マクロ経済・企業分析などの記事執筆が得意分野。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。noteでも記事を執筆中。https://note.com/otosanusagi
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