オペレーションF[フォース] (21)

連載小説 オペレーションF[フォース] 第21回

執筆者:真山仁 2023年7月15日
タグ: 日本
エリア: その他
(C)時事[写真はイメージです]
国家存続を賭けて、予算半減という不可能なミッションに挑んだ「オペレーションZ」。あの挫折から5年、新たな闘いが今、始まる。防衛予算倍増と財政再建――不可避かつ矛盾する2つが両立する道はあるのか? 目前の危機に立ち向かう者たちを描くリアルタイム社会派小説!

【前回まで】財源を国債に逃げないだろうね――宮城教授の問いに、主税局の土岐は、防衛費は国民一人一人が負担することに意味があると答える。だが国民の理解を得るのが難題だった。

 

Episode3 リヴァイアサン

 

3(承前)

「なあ、そろそろ『ブル江島』の出番じゃないのか」

 宮城が事あるごとに口にする言葉だ。だが、このところ、「こういう危機には、江島しかいないのでは?」という江島元総理の再登板を求める声が、財界からも上がっている。

「それがベストだと思いますが、今や無所属の一国会議員ですからねえ。保守党に復帰でもしてくれない限り、厳しいでしょうね」

「それについては、ちょっとしたアイディアがあるんだけどな」

 約30万人のフォロワーを持つインフルエンサーの宮城が、嬉しそうに言った。

「先生、それも気になりますが、それよりもまず、財源確保です。今のところの落としどころは、法人税と所得税に、少しだけ上乗せして徴収する、復興税のパターンです」

 所得税収額は約20兆円、法人税額は約13兆円だ。例えば、現在徴収している復興税と同額の2.1%を徴収すると所得税で4200億円、法人税はかつて3年間だけ導入し、結局経団連の反対により2年でやめた復興税10%を再び徴収するのは無理なので、仮に所得税と同じ2.1%程度となると約2700億円、計約6900億円が徴収できる。しかし、これではまだ不足なので、倍額の4.2%まで持って行ければ、約1兆3800億円となり、今年度分は、クリアできる。

 ただし、復興税は現状令和19(2037)年まで徴収予定で、その期間は、合計で所得税額の6.3%が、納税者の負担増となる。

「この追加分の4.2%増って、源泉徴収されている税額の4.2%ってことだろ。わかりやすく言うと、1ヵ月の報酬が50万円で10%の源泉徴収をされている人だと、2100円税金が増えるってことだよな。これぐらいなら、よくないか」

 いやあ、みんなが宮城のような物わかりのいい人なら、助かるのだが……。「主婦目線を大切にするメディアは、共働きだと、月に4200円の負担。これは4人家族が、サイゼリヤ1回分の外食を我慢する額ですね。年間だと、約5万円。今年は、東京ディズニーランドに行く回数を2回減らさなければなりません――と言い出すでしょうね」

 周防の指摘には腹が立ったが、ワイドショーならやりそうだ。

「じゃあ、北朝鮮からミサイル、中国から戦闘機が飛んできて攻撃されても、文句は言うなよって言ってやれ」

 口は悪いが平和主義者だったはずの宮城の言葉とは思えない発言だった。

「宮城教授、どうしちゃったんです。そんな好戦的な発言をして」

「僕は、自国の安全保障に無頓着な輩が大嫌いなんだ。別に戦争をしろとは言ってない。だが、攻撃されないための備えは怠るなと言いたいだけだ」

「だが、日本が軍備増強した方が、攻撃されるリスクが高まるのではないかと考える国会議員やメディアは、うようよいます。また、増税の前に、無駄を省けという主張も声高になる」

「土岐さん、今日のワイドショーで、ミサイル1発で保育園が何軒建つのかという発言が出て、ネットで炎上してますよ」……

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
真山仁(まやまじん) 1962(昭和37)年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004(平成16)年に企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』で衝撃的なデビューを飾る。同作をはじめとした「ハゲタカ」シリーズはテレビドラマとしてたびたび映像化され、大きな話題を呼んだ。他の作品に『プライド』『黙示』『オペレーションZ』『それでも、陽は昇る』『プリンス』『タイムズ 「未来の分岐点」をどう生きるか』『レインメーカー』『墜落』『タングル 』など多数。
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