「Xi-flation(シーフレーション)」の最も深刻な代償は?
Foresight World Watcher's 4Tips
今週もお疲れ様でした。死せる孔明……というといろいろ語弊がありそうですが、今週末のG20を控え、「不在」の習近平氏とその体制をめぐる議論が熱を帯びます。論点の核にあるのは、やはり中国経済の悪化です。デフレと投資マネーの流出という二つの角度からのアプローチは経済メディアを中心に論点が出そろってきた印象がありますが、ふだんは政治と外交を主領域とするメディアはどうでしょうか。苦境にある中国に対して圧力をかけ続けるべきなのか、むしろ反対に関係修復の好機とみるべきか。対照的な議論をご紹介します。
フォーサイト編集部が週末に熟読したい記事、皆様もよろしければご一緒に。
At G-20 and in Vietnam, Biden to sell American partnerships — all at China's expense【Alexander Ward/POLITICO/9月7日付】
Absence speaks loudly at the G-20【Nahal Toosi/POLITICO/9月7日付】
米「ポリティコ」は米国の内政、さらに言うならワシントンDCにおける権力の趨勢に特化したオンラインメディアだと目されがちだが、その内政、そしてワシントン情勢に大きく影響する場合、経済や外交といった分野にも目配りを忘れない。
直近で印象的なのは、週末にニューデリーで開かれるG20(主要20カ国・地域)首脳会議についての記事が9月7日付で立て続けに登場したことだ。そのうち、「G20とベトナムでアメリカのパートナーシップを売り込むバイデン――中国を方便にして」(筆者は安全保障担当記者のアレクサンダー・ウォードとホワイトハウス支局長のジョナサン・ルマイア)は、“ポリティコらしい”もので、G20サミットとベトナム訪問に臨むジョー・バイデン大統領の狙いを説明した末に、9.11をめぐる、こんな内政ネタで締めくくられている。
「バイデンがG20サミットを終えたのち、有意義なハノイ訪問を行い、さらにワシントンに戻って、ハイジャックされた旅客機が[世界貿易センターや米国防総省に]突入した時刻に行われる毎年恒例の追悼式典に出席するには十分な時間がなかった。そのため、バイデンがアジアからの帰途、エアフォース・ワンが給油のために立ち寄るアラスカの軍事基地で、軍人らとともに厳粛な瞬間に立ち会うことが決まったと、関係者は明かす」
「米国史上最悪のテロ攻撃から22年目となるこの日、バイデンは、攻撃された地点3カ所のいずれにおいても記念式典に出席しない初の大統領となる。その任務はカマラ・ハリス副大統領とジル・バイデン夫人(もし彼女がそれまでにコロナ感染から回復していれば)が担う」
米国の大統領が今この時期にG20(そしてベトナム)よりも9.11を重視するのも難しいだろうが、ポリティコのもう1本の記事「欠席こそが声高にものを語るG20」(筆者は外交・安全保障担当記者ナハル・トゥーシ)は、内政には触れず、ニューデリーに来る首脳、来ない首脳についてさまざまに紹介。現在ただいまの国際情勢の持つ影響力と複雑さが、“内向き志向”の消えない米国(の次期大統領選)にとってさえ無視できないほど大きくなっていることが、あらためて痛感できる記事でもある。
■ロシア:ウラジーミル・プーチン大統領【欠席】
G20サミットと同じ週末の10日(日)にウラジオストクで始まる東方経済フォーラムのホストを務める。フォーラムは「ウクライナ戦争向けにロシアへの武器供与を検討していると米国が主張する北朝鮮の金正恩委員長との会談の場になるかもしれない」
■ロシア:セルゲイ・ラブロフ外相【出席見込み】
「ラブロフは、G20がクレムリンの進めるウクライナ戦争を非難する正式な声明を出すことを頓挫させようとするだろう」「昨年インドネシアで開催されたG20サミットでは、多くの人が驚いたように、ほとんどの出席者がウクライナ戦争を批判する声明を発した」
■ウクライナ:ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領【欠席見込み】
昨年のG20サミットではオンライン演説を行った。今回は招待されていないが、なんらかの形で参加する可能性はある
■ジャスティン・トルドー首相(カナダ)、エマニュエル・マクロン大統領(フランス)、リシ・スナク首相(イギリス)【出席】
ゼレンスキー不参加の場合でも、バイデン大統領とともに「ウクライナの大義」を唱える見込み
■サウジアラビア:ムハンマド・ビンサルマン皇太子【出席】
人権抑圧で悪名高い存在だが、バイデン米大統領は皇太子と昨年会談済み。今回のG20でサウジとイスラエルとの国交正常化を働きかける可能性もある
■トルコ:レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領【出席】
「目が離せない」。プーチンにメッセージを伝えることが「エルドアンならできる」。アラブ諸国に石油価格の緩和を促す場合でも「彼は多くのコネクションを持っている」
■中国:習近平国家主席【欠席】
自国の経済危機に直面しており、「国内の不満が高まるなか自国を離れることを警戒している可能性もある」
Xi's Policies Have Shortened the Fuse on China's Economic Time Bomb【Zongyuan Zoe Liu/Foreign Policy/9月6日付】
「中国は[債務の増大と成長減速の同時進行、低迷が続き過剰供給に追いつけない家計消費、人口動態の悪化という]3つの大きな構造的課題に直面しており、日本の『失われた数十年』のような経済停滞のリスクにさらされている。[中略]中国の構造的課題の必然的な清算は、習の台頭以来、加速している」
「中国では、習が改革開放政策から離脱し、毛沢東時代を彷彿とさせる政治的、イデオロギー的、地理経済的な拡大志向を取り戻したことで――たとえ一過性だとしても――経済デフレの症状が現れている。その結果生じた現象は中国特有のデフレ、『Xi-flation(シーフレーション)』と呼べるだろう。過去5年間の政策ショックの積み重ねは、中国の成長を――ブチ壊しにはしないまでも――邪魔し続けてきた構造的な課題を鎮めるどころか、むしろ悪化させた」
米「フォーリン・ポリシー(FP)」誌サイトに同外交問題評議会(CFR)研究員で同コラムニストのソンユアン・ゾーイ・リューが寄せた「中国の経済時限爆弾の導火線を切り詰める習の諸政策」(9月6日付)は、ポリティコのトゥーシも指摘する中国の経済の悪化とそれに伴う習体制への不安の高まりがよくわかる論考だ。
「習近平のインフレ政策は中国の潜在的な構造問題を悪化させ、そのツケは嵩んでいる」「このような政策の失策による経済的コストより、さらに大きな問題がある。シーフレーションの最も深刻な代償は、内外からの中国経済への信頼がかつてないほど失墜したことだ。北京の持つ従来の経済政策には今回の危機に対処するためのメニューはない」
「習の政策は鄧小平の遺産の多くを覆し、中国経済の成功の方程式を根底から覆した。観光やビジネスの目的地としての中国の魅力は低下し、国のエリートの多くが国境を越えて将来を見据えるようになっている。この傾向が続けば、中国は恐るべき中所得国の罠に陥るかもしれないし、金融危機のようなさらに深刻なリスクに直面するかもしれない」
Xi Prepares to Eat Economic Bitterness【Craig Singleton/Foreign Policy/9月7日付】
一方で、こうした現在の、そして今後予想される経済成長の鈍化を中国は折り込み済みだと説く論考も現れた。同じFP誌サイトに9月7日付で掲載された「経済的な辛苦を覚悟している習」だ。筆者である米民主主義防衛基金の上級中国研究員、クレイグ・シングルトンは次のように見ている。……
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