乱れ飛ぶ虚偽情報
イスラエルとハマスを巡る誤情報・偽情報が乱れ飛び、世界が混乱している。10月9日にイスラエルがガザ地区の聖ポルフィリウス教会を空爆しているという映像が出回ったかと思えば、聖ポルフィリウス教会自身は同日夜にこの事実をFacebook上で否定した。10月17日にはガザ地区のアル・アハリ病院が爆破された直後にガザの保健省がイスラエルのロケット弾によるものであると主張したかと思えば、イスラエルはこれがガザの武装勢力・イスラム聖戦から発射されたロケット弾によるものであるとし、その証拠とする動画をX(旧ツイッター)上で公開した。しかし数分のうちにニューヨークタイムズの記者がこの動画のタイムスタンプが爆破から1時間経ったものであることを指摘した。
当事者らによる情報戦の側面もあるが、それだけではない。ハマスからの攻撃とする偽動画や、逆にイスラエルからの攻撃とする偽動画などが、ロシア語を用いるアカウントなど様々なアカウントから拡散されている、とオランダの調査報道機関ベリングキャット(Bellingcat)は指摘する。インドの与党であるインド人民党(BJP)に連なるヒンドゥー・ナショナリストのアカウントからも、ハマスがイスラエルを攻撃した際の写真とされる偽の写真などが大量に拡散されている。他国政府、政党、トロール、陰謀論者など、多様なレベルのアクターが情報空間を歪め、無視できない影響を与えている。
関心経済と感情が支配する世界
人々が持つ「時間」という限られた資源を、そしてページビューやサイト滞在時間を巡って争うSNSプラットフォーマーは、情報の真偽や質よりも人々の関心を引き感情に訴えるコンテンツを拡散させる。関心経済と呼ばれるモデルである。悲しみ、嘆き、怒りなどの感情を乗せたコンテンツは、瞬時に人々の心に刺さる。
しかも、人々はニュースを見飽きているかも知れないが、虚偽の情報に対する反応は早い。実際、虚偽の情報は真実の情報よりも拡散速度が有意に早いことが、MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究者らなどによって明らかにされている。感情に訴える虚偽情報が拡散されたとき、このような不正義があってはならないと無垢の人々がリポストし、事態をさらに悪化させる。こうして、感情に訴える虚偽のコンテンツは驚異的な速度でネット上に拡散していく。
ツイッター買収後にイーロン・マスクがヘイトスピーチや虚偽情報対策といったコンテンツモデレーション能力を大幅に削減し、関心経済モデルを強めたことも、イスラエルとハマスの戦争を巡る虚偽情報がここまで幅広く拡散した原因の一つである。デジタルヘイト対策センター(Center for Countering Digital Hate)が11月14日に発表した調査結果によれば、この紛争を巡るヘイトスピーチや誤情報200件をXに報告したところ、1週間が経過しても4件しか削除されず、残り98%の投稿はプラットフォーム上に残されたままだったという。欧州委員会は11月17日、Xへの広告掲載を停止し、企業らに対してXへの広告掲載を控えるよう勧告している。
虚偽情報のもぐら叩き
何が真実かを認識できるようにするためには、ファクトチェックやメディアリテラシー教育が必要であると言われる。目の前にしている情報の確からしさを、他の情報源からの情報に照らし合わせて確認することが推奨されているのである。……
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