【前回まで】台湾の潜水艦は返還する、条件は日中安全保障条約締結への協力――。華首相の提案は罠か好機か。元外務省の野添の反対を押し切って、都倉は提案を呑む決断をする。
Episode5 四面楚歌
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華と一緒に記者会見を開くと決定してから、長時間待機させられた。
国家主席ら政治局常任委員への報告、軍への対応要請と順調に進んでいると、順次、王課長から報告があったが、それでも会見に至るまでには、長い道のりがあったようだ。
都倉としては、記者発表の前に、大迫総理と繁森外相に連絡しておきたかった。
当初は、「それは、できない相談だな」と華は却下したのだが、都倉を日本政府代表として記者会見に臨ませたいなら、それは必須と説き伏せた。
だが、そのゴーサインがまだ出ないのだ。
明け方近くになって、ようやく王課長が「会見は、早くても明朝になるので、暫く仮眠をお取り願いたい」と言ってきた。
到底、眠れる心境ではなかったが、それでも、会見で失言するわけにはいかず、都倉は、用意された部屋で、横になった。
照明を全て消して横になっても、頭は眠る気配もなく、逆に様々な考えや感情が渦巻いた。
これから自分は何度となく、この日のことを思い出すのだろう。それは、痛恨の記憶としてだろうか、あるいは晴れがましい想い出としてだろうか。
いずれにしても、自分の決断に悔いはない。
こういう決断をするために、国会議員になったのだ。この決断の是非は、私が決めることではない。
午前7時にベッドサイドの固定電話が鳴った。野添だった。
“おはようございます。今、王課長から連絡があって、午前9時半には、会見場にご案内したいそうです”……
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