オペレーションF[フォース] (46)

連載小説 オペレーションF[フォース] 第46回

執筆者:真山仁 2024年1月6日
タグ: 日本
エリア: その他
(C)時事[写真はイメージです]
国家存続を賭けて、予算半減という不可能なミッションに挑んだ「オペレーションZ」。あの挫折から5年、新たな闘いが今、始まる。防衛予算倍増と財政再建――不可避かつ矛盾する2つが両立する道はあるのか? 目前の危機に立ち向かう者たちを描くリアルタイム社会派小説!

【前回まで】党総務会長を解任され、幹事長から議員辞職を迫られた都倉だが、中国でやらなければならないことが残っていた。寧波の艦隊司令部で、潜水艦の解放を見届けるのだ。

 

Episode5 四面楚歌

 

12

 悪天候の中、都倉は中国政府が用意したビジネスジェットで、寧波に向かった。

 華は同行しなかったが、中南海でずっと都倉をアテンドしていた外交部の王課長と人民解放軍海軍副司令員が搭乗している。

 また、日本からは、都倉以外に野添と共同通信の記者とカメラマンが同行していた。

 大使館員が添乗していないのは、これもまた、都倉の個人的な行為という線引きのせいだ。

 基子は、インタビュー後30分で、彼女と契約しているオンライン・ニュースに原稿を出稿した。さらに、映像については、NHKに提供し、遅くとも1時間後には、放送される予定になっていた。

 寧波への移動中及び基地内は、Wi-Fiを含めて一切の通信機器の使用が禁止された。

 また、基地内では、潜水艦の解放を見届ける都倉の様子を撮影する許可は得ているが、配信は、北京に戻ってからという規制がかかっていた。

 司令部での対応は、素晴らしかった。

 都倉は司令部トップの司令員自らに迎えられ、丁寧な応対を受けた上で、台湾の潜水艦の艦長と彼らを「救出した」中国フリゲート艦の艦長が揃った場に案内され、司令員を含めた4人で記念撮影まで行った。

 台湾軍の艦長は複雑な表情をしていたが、それでも、都倉と握手した時に「先生のご尽力に、乗組員を代表して、心からの御礼を申し上げます」と言った。

 セレモニーは粛々と進み、横殴りの雨の中、台湾の潜水艦は、大勢の中国人民解放軍海軍兵に見送られて、出港した。

 船の損傷が激しいため、中国軍のサルベージ艦と巡洋艦がサポートしての出港だった。

 曳航された潜水艦は、台湾・高雄の左営海軍基地に向かう予定で、台湾のEEZで、台湾軍に引き渡すことになっている。

 軍から提供された合羽に身を包み、都倉は潜水艦が見えなくなるまで見送っていた。

 背後から兵曹が大きめの傘を差しかけてくれているが、風雨が激しい状況では、びしょ濡れだった。

 その後、司令員室で基地の幹部たちと温かい紅茶を飲んだ上で、共同通信と新華社、人民日報、中央電視台の共同取材を受けた。

 共同通信記者が口火を切って、見送った時の感想を聞かれた。

「無事に台湾の潜水艦が出港したのを見届けられて、ホッとしています」

「今回の都倉さんの判断について、既に国内メディアでは、様々な意見が取り上げられていますが、それについてのお考えは?」……

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
真山仁(まやまじん) 1962(昭和37)年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004(平成16)年に企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』で衝撃的なデビューを飾る。同作をはじめとした「ハゲタカ」シリーズはテレビドラマとしてたびたび映像化され、大きな話題を呼んだ。他の作品に『プライド』『黙示』『オペレーションZ』『それでも、陽は昇る』『プリンス』『タイムズ 「未来の分岐点」をどう生きるか』『レインメーカー』『墜落』『タングル 』など多数。
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