悪党たちのソ連帝国 (1)

第1回 レーニン 帝国の創始者(前編)

執筆者:池田嘉郎 2024年1月21日
カテゴリ: カルチャー
エリア: ヨーロッパ
レーニンが法廷弁護士助手を務めた建物の記念プレート。ロシア・サマーラにて(筆者撮影)
レーニンが解体したはずの「ロシア帝国」は、いかにして強大な「ソ連帝国」として再建され、現在の「プーチン帝国」にいたったのか――ソ連に君臨した6人の悪党たちの足跡から、ロシアという特異な共同体の正体を浮き彫りにする新連載。第1回は、逝去100年を迎えたレーニンを取り上げる。

プロローグ

 1924年1月下旬、雪で白くなったモスクワの中心部に、幾重もの人の列が伸びていた。みな労働組合会館の「柱の間」に横たえられた亡骸に、別れを告げに来ているのであった。大人だけではなく、若者も、子どももいた。ユーリーという少年はまだ6歳であったが、熱心な共産主義青年同盟員の兄に連れられて葬列にまじっていた。冷え込みがきつく、あちこちで焚火が燃されていた。兄はあとで父親から、「お前はちっちゃいやつをどこへ引っ張っていったんだ。こいつは頬中しもやけになってるじゃないか」と怒鳴られた1

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執筆者プロフィール
池田嘉郎(いけだよしろう) 1971 年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科教授。東京大学大学院人文社会系研究科博士(文学)。専門は近現代ロシア史。主な著書に『革命ロシアの共和国とネイション』(山川出版社、2007 年)、『ロシア革命 破局の8か月』(岩波書店、2017 年)、共著に『世界戦争から革命へ (ロシア革命とソ連の世紀 第1巻)』(岩波書店、2017年)、訳書にミヒャエル・シュテュルマー『プーチンと甦るロシア』(白水社、2009年)、アンドレイ・プラトーノフ『幸福なモスクワ』(白水社、2023 年)などがある。
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