【前回まで】約束通り台湾の潜水艦が解放されるのを見届けて、都倉は北京に戻った。そこに保守党事務局長の和気が現れ、党除名処分決定と議員辞職勧告決議の見通しを告げる。
Episode5 四面楚歌
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翌日、日本帰国を前に都倉は、米国CNNのインタビューに応じた。
相手は、CNN屈指の中国通アンカー、ケイティ・ダグラスだ。
ダグラスによるインタビューは、重要だと基子に強く勧められた。
“都倉議員、早朝から失礼します”
爽やかなスカイブルーのスーツを着たダグラスとは、オンラインで繋がっている。
“香港でも、都倉議員の話題で持ちきりです。まずは、勇気ある行動に敬意を表します”
「国会議員として当然のことをしたまでです」
“当然とは、何を指すのですか”
「日本が、戦争に巻き込まれるリスクを抑えること、そして、東アジアの平和維持です」
すっかり錆び付いている自覚はあったが、都倉は英語で答えた。
CNNからは、通訳を入れるという提案もあったのだが、生放送ではないので断った。そして英語の誤用があれば、発言しなおすと返した。
“都倉議員は、中国通でもないとのことですが、それだけに今回の決断については、日本政府から非難の声が上がっているそうですね”
外国のキャスターは、日本のように斟酌してくれない。相手が誰であっても、容赦なく鋭い質問を放ってくると、基子から聞いていた。特に、若手のダグラスは怖い物知らずで、質問にエッジが効いているらしい。
「国会議員の最大の使命は、国民の命と国益を守ることにあります。ならば、門外漢だからと逃げるのではなく、決断するべきだと考えました。
それを越権行為だと非難されたとしても、後悔はありません」
“華首相との記者会見では、都倉議員の方から、『海隼』の即時解放を、強く華首相に訴えられたとコメントされていましたが、それで間違いありませんか”
ダグラスは、疑っているのだろうか。
「強く訴えたかどうかは、記憶にありませんが、東アジアの平和維持のために、解放すべきではと提案したのは、事実です」
“華首相との交渉に際して、総理や外務大臣に、相談はされたのでしょうか”
「できませんでした」
“さすが中国! という感じもしますが、華首相とはご学友なんですよね”
「北京大学留学時に親しくしていた友人の一人です」
“それにしても、華首相は、都倉議員をよほど高く買っているんでしょうね。あなたの提案を受け入れたわけですから”
このインタビューの落としどころが、都倉には見えなかった。批判的ではなさそうだが、誘導されて墓穴を掘るリスクに注意しなければならない。
「それは、ご本人に確認してください。確かに華首相は旧友ですが、私が提案しなくても解放するつもりだったのかも知れません」
“つまり、あなたに花を持たせた、と?”
「そういうことかも知れません。華首相は、台湾の潜水艦を救助しただけで、台湾にいつでもお返しするとおっしゃっていました。なので、ぜひそうして欲しい、と伝えました。私が申し上げたのは、それだけです」
“日中間で、重大な密約が結ばれたのでは、という推測があるのですが”
華が提案した中日安全保障条約の存在を、仄めかしているのだろうか。
「私と密約を交わしても、何の意味もないでしょう。私は外務大臣ではありませんから」
“アメリカ国防総省のある高官は、あなたの行為は、世界的非難を浴びるはずの中国を救ったと考えています”
「つまり、アメリカ政府から非難されている、ということでしょうか」
“そうかも知れません”
「あの時、私が考えたのは、『海隼』及び乗組員を一刻も早く、台湾に帰すことでした」
“では、最後の質問です。この事件によって、今後の日中外交にとって、都倉議員は、重要なパイプ役を担うと考えられますが、それについての抱負は?”
そんな風に考えている者が、日本に存在しているだろうか。
都倉は「帰国したら、私には厳しい懲罰が待っています」と答えてみたいという衝動を抑え込んだ。
「そんな大役を果たせるのか、自信はありませんが、私にできることがあれば、ベストを尽くしたいと思います」
15
その後、ホテルを発つ直前に、BBCからのインタビュー依頼がきた。
BBCは、中国のインテリジェンス機関である国家安全部が、都倉を北京大学留学時代からマークしており、リクルートした疑惑があると分析しているという。……
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