オペレーションF[フォース] (47)

連載小説 オペレーションF[フォース] 第47回

執筆者:真山仁 2024年1月13日
タグ: 日本
エリア: その他
(C)AFP=時事[写真はイメージです]
国家存続を賭けて、予算半減という不可能なミッションに挑んだ「オペレーションZ」。あの挫折から5年、新たな闘いが今、始まる。防衛予算倍増と財政再建――不可避かつ矛盾する2つが両立する道はあるのか? 目前の危機に立ち向かう者たちを描くリアルタイム社会派小説!

【前回まで】約束通り台湾の潜水艦が解放されるのを見届けて、都倉は北京に戻った。そこに保守党事務局長の和気が現れ、党除名処分決定と議員辞職勧告決議の見通しを告げる。

 

Episode5 四面楚歌

 

14

 翌日、日本帰国を前に都倉は、米国CNNのインタビューに応じた。

 相手は、CNN屈指の中国通アンカー、ケイティ・ダグラスだ。

 ダグラスによるインタビューは、重要だと基子に強く勧められた。

 “都倉議員、早朝から失礼します”

 爽やかなスカイブルーのスーツを着たダグラスとは、オンラインで繋がっている。

 “香港でも、都倉議員の話題で持ちきりです。まずは、勇気ある行動に敬意を表します”

「国会議員として当然のことをしたまでです」

 “当然とは、何を指すのですか”

「日本が、戦争に巻き込まれるリスクを抑えること、そして、東アジアの平和維持です」

 すっかり錆び付いている自覚はあったが、都倉は英語で答えた。 

 CNNからは、通訳を入れるという提案もあったのだが、生放送ではないので断った。そして英語の誤用があれば、発言しなおすと返した。

 “都倉議員は、中国通でもないとのことですが、それだけに今回の決断については、日本政府から非難の声が上がっているそうですね”

 外国のキャスターは、日本のように斟酌してくれない。相手が誰であっても、容赦なく鋭い質問を放ってくると、基子から聞いていた。特に、若手のダグラスは怖い物知らずで、質問にエッジが効いているらしい。

「国会議員の最大の使命は、国民の命と国益を守ることにあります。ならば、門外漢だからと逃げるのではなく、決断するべきだと考えました。

 それを越権行為だと非難されたとしても、後悔はありません」

 “華首相との記者会見では、都倉議員の方から、『海隼』の即時解放を、強く華首相に訴えられたとコメントされていましたが、それで間違いありませんか”

 ダグラスは、疑っているのだろうか。

「強く訴えたかどうかは、記憶にありませんが、東アジアの平和維持のために、解放すべきではと提案したのは、事実です」

 “華首相との交渉に際して、総理や外務大臣に、相談はされたのでしょうか”

「できませんでした」

 “さすが中国! という感じもしますが、華首相とはご学友なんですよね”

「北京大学留学時に親しくしていた友人の一人です」

 “それにしても、華首相は、都倉議員をよほど高く買っているんでしょうね。あなたの提案を受け入れたわけですから”

 このインタビューの落としどころが、都倉には見えなかった。批判的ではなさそうだが、誘導されて墓穴を掘るリスクに注意しなければならない。

「それは、ご本人に確認してください。確かに華首相は旧友ですが、私が提案しなくても解放するつもりだったのかも知れません」

 “つまり、あなたに花を持たせた、と?”

「そういうことかも知れません。華首相は、台湾の潜水艦を救助しただけで、台湾にいつでもお返しするとおっしゃっていました。なので、ぜひそうして欲しい、と伝えました。私が申し上げたのは、それだけです」

 “日中間で、重大な密約が結ばれたのでは、という推測があるのですが”

 華が提案した中日安全保障条約の存在を、仄めかしているのだろうか。

「私と密約を交わしても、何の意味もないでしょう。私は外務大臣ではありませんから」

 “アメリカ国防総省のある高官は、あなたの行為は、世界的非難を浴びるはずの中国を救ったと考えています”

「つまり、アメリカ政府から非難されている、ということでしょうか」 

 “そうかも知れません”

「あの時、私が考えたのは、『海隼』及び乗組員を一刻も早く、台湾に帰すことでした」

 “では、最後の質問です。この事件によって、今後の日中外交にとって、都倉議員は、重要なパイプ役を担うと考えられますが、それについての抱負は?”

 そんな風に考えている者が、日本に存在しているだろうか。

 都倉は「帰国したら、私には厳しい懲罰が待っています」と答えてみたいという衝動を抑え込んだ。

「そんな大役を果たせるのか、自信はありませんが、私にできることがあれば、ベストを尽くしたいと思います」

 

15

 その後、ホテルを発つ直前に、BBCからのインタビュー依頼がきた。

 BBCは、中国のインテリジェンス機関である国家安全部が、都倉を北京大学留学時代からマークしており、リクルートした疑惑があると分析しているという。……

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
真山仁(まやまじん) 1962(昭和37)年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004(平成16)年に企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』で衝撃的なデビューを飾る。同作をはじめとした「ハゲタカ」シリーズはテレビドラマとしてたびたび映像化され、大きな話題を呼んだ。他の作品に『プライド』『黙示』『オペレーションZ』『それでも、陽は昇る』『プリンス』『タイムズ 「未来の分岐点」をどう生きるか』『レインメーカー』『墜落』『タングル 』など多数。
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