
車両認証試験での不正に揺れるダイハツ工業の再建を、トヨタ自動車が主導することに疑問の声が上がっている。トヨタは完全子会社のダイハツに対して新たに社長、副社長、取締役の3人を送り込み、「上にモノを言えない」社内風土を改革するという。しかし、そもそもこれまでも、ダイハツ役員陣には奥平総一郎社長(67)はじめトヨタ出身者が名を連ねた。ダイハツの社風が問題ならば、その責任の一端はトヨタにもあるだろう。
ダイハツの不正は、短期間での新車開発を迫られた現場が、無理筋なスケジュールを上司に相談しても「無駄」だと考えたことに起因する。また、ダイハツはトヨタグループの中で「新興国小型車カンパニー」としての役目を担ってきたが、トヨタが新興国向けコンパクトカーの開発に強烈なプレッシャーをかけたことも、開発部門が不正に手を染めた原因の一つだとされる。
トヨタはダイハツ社内の風通しをよくするとともに軽自動車に特化させ、新興国向け小型車の開発はトヨタと役割分担していく方針だ。このためトヨタは当初、資本提携相手でもあり軽自動車や新興国向け小型車に強いスズキに、ダイハツを再建するトップの派遣を要請したと経緯を知る関係者は証言する。特に有望視されたのは、トヨタ出身で現スズキ副社長の石井直己氏(58)だ。
これに対してスズキは、自社でもかつて燃費不正や完成検査不正が発覚したことなどを表向きの理由にして、「丁重に断った」(関係者)。石井氏はスズキの鈴木俊宏社長(64)の右腕であり、今抜けられるとスズキの戦略にも影響する。何よりスズキは、ダイハツとは長年にわたって軽自動車市場のライバルだ。今後、ダイハツが軽自動車に特化するならなおさら、有力人物の派遣は敵に塩を送ることになりかねない。
こうしてトヨタには、社内人材の活用しかなくなった。奥平社長の後任には、3月1日付でトヨタの井上雅宏中南米本部長(60)が就任する。

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