米共和党「トランプ党化」の度合いを占うヘイリー支持者の動向

執筆者:渡部恒雄 2024年4月9日
エリア: 北米
ニッキー・ヘイリーはトランプに潰されなかった稀有な人物である[米テキサス州フォートワースの集会で演説するヘイリー氏(中央)とその支持者たち=2024年3月4日](C)EPA=時事
前々回2016年の大統領選と比べ、米共和党の「トランプ党化」は着実に進展した。しかし、予備選の出口調査でのヘイリー支持者の回答からは、党内の反トランプ層も一定の勢力を保っていることがわかる。本来ならば、ヘイリー支持者を取り込むことがトランプ陣営にとっても合理的な戦略だが、トランプは「排除の論理」でさらなる純化路線を進むだろう。

 日本では 「もしトラ」の状況が「ほぼトラ」になったとして、トランプ再選が確実のような見方も多くでているが、選挙は半年以上先であり、実際のところ、ジョー・バイデンが勝つのか、ドナルド・トランプが勝つのかは、神のみぞ知るという状況にある。

 しかし「ほぼトラ」と考える人が増えている理由は理解できる。トランプ氏が今回の共和党予備選において圧倒的な支持を得て、3月5日のスーパーチューズデーで指名獲得を確実にしたからだ。そして共和党の「トランプ化」の進行を強く印象づけることになった。

8年前より進展した共和党のトランプ化

 2016年にトランプ氏が大統領に当選したときの共和党の予備選は、状況がまったく違っていた。トランプ氏は共和党のアウトサイダーであり、当時共和党執行部はトランプ氏を泡沫候補と考えていたが、予備選で着実に得票を重ねていき、3月のスーパーチューズデーが終わった時点では、首位ではあったが決着がつかないままだった。5月に2位につけていたテッド・クルーズ上院議員が撤退を表明すると、ラインス・プリーバス共和党全国委員長は、当時の共和党の価値観を全く反映していない「トランプ候補」を、ツイッター(現X)で「事実上の指名獲得者」と呼ぶ苦渋の選択をした。プリーバス氏はこの功績も評価されトランプ政権の初代・大統領首席補佐官となり、トランプ氏と既存の共和党の価値観や政策との調整を図るが、トランプ主義を徹底しようとするスティーブ・バノン首席戦略官(当時)らトランプ側近と衝突して早々に辞任した。

 今年、3月5日のスーパーチューズデーで、トランプ氏の指名獲得が確実になると、共和党全国委員会は8日、次期委員長に、トランプ氏に近いマイケル・ワトリー氏を起用し、ナンバー2の共同委員長にはトランプ氏の次男エリック氏の妻ララ・トランプ氏が就任することが決定された。

 トランプ氏は2020年の大統領でバイデン氏に敗北したにもかかわらず、むしろ共和党内の支持を固め、共和党の「トランプ党」化が着実に進んでいることは、米国外からみれば衝撃的なことだった。

 実際のところ、共和党のトランプ化はどの程度進んでいるのか。そして、それは不可逆的な動きなのか。それを理解する鍵は、共和党予備選でトランプ氏に挑戦し、3月に撤退するまで、堅実に反トランプ票を集めてきたニッキー・ヘイリー候補とその支持者の動向にある。しかも、それは11月の大統領選挙の帰趨を握ることにもなりそうだ。

ニッキー・ヘイリー支持の票はどこに?

 共和党予備選では、トランプ氏の圧倒的な強さとともに、ヘイリー元国連大使(トランプ政権)の着実な得票が注目された。ヘイリー氏はワシントンDCとバーモントの二州で勝利し、ニューハンプシャーではトランプ54.3%に対して43.3%の票を獲得、サウスカロライナではトランプ59.8%に対して39.5%、本選のカギを握る接戦州でもミシガン26.6%、ノースカロライナ23.3%、バージニア35.0%、ジョージア13.2%、アリゾナ17.8%、フロリダ13.9%、オハイオ14.4%という票を獲得している。

 接戦となるであろう本選で、これらの票の行方が勝利の帰趨に影響することは間違いない。バイデン陣営はこの状況をよく理解して、選挙キャンペーンに反映させている。バイデン大統領の次席補佐官から、再選のために民主党の選挙対策の責任者に起用されたジェン・オマリー・ディロン氏は、3月29日のニューヨーク州でのバイデン選対の資金委員会で、共和党予備選でヘイリーに投票した層は、バイデンが獲得できる票だと発言した。

 そしてバイデン陣営は、ネット上の選挙広告で、トランプ氏が「予備選でヘイリー氏に投票した人達の票は必要ない」と発言した実際の動画を使い、「アメリカを救うためにバイデン・ハリス陣営に参加を」(Save America. Join us. Biden/Harris)という選挙広告をウェブ上で流している

 この広告の根拠となるのは、ヘイリー支持層の傾向である。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
渡部恒雄(わたなべつねお) わたなべ・つねお 笹川平和財団上席フェロー。1963年生まれ。東北大学歯学部卒業後、歯科医師を経て米ニュースクール大学で政治学修士課程修了。1996年より米戦略国際問題研究所(CSIS)客員研究員、2003年3月より同上級研究員として、日本の政治と政策、日米関係、アジアの安全保障の研究に携わる。2005年に帰国し、三井物産戦略研究所を経て2009年4月より東京財団政策研究ディレクター兼上席研究員。2016年10月に笹川平和財団に転じ、2017年10月より現職。著書に『大国の暴走』(共著)、『「今のアメリカ」がわかる本』、『2021年以後の世界秩序 ー国際情勢を読む20のアングルー』など。最新刊に『防衛外交とは何か: 平時における軍事力の役割』(共著)がある。
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