「極右が伸長」の欧州議会選でスウェーデンの「極右」はなぜ後退したのか

執筆者:鈴木悠史 2024年7月1日
タグ: EU
エリア: ヨーロッパ
欧州議会選ではフランスのように極右が伸長した国もあれば、スウェーデンのように極右が伸び悩んだ国もあった[今年1月、NATO加盟を申請したスウェーデンを訪れ、同国のクリステション首相(右)と会談したマクロン仏大統領=2024年1月30日、スウェーデン・ストックホルム](C)AFP=時事
全体としては極右あるいはEU懐疑派が伸長した欧州議会選挙だが、スウェーデンでは2年前の国政選挙で躍進した極右勢力「スウェーデン民主党」が得票数を減らした。投票1カ月前に発覚した同党の世論操作スキャンダルの影響に加え、今回の選挙では有権者が「移民/難民」政策を重視しなかったことが背景にある。ただし、スウェーデンでは欧州議会選を他の政党を試す機会と捉え、国政選挙と投票先を変える傾向もある。スウェーデン民主党の支持率そのものが低下したわけではないことにも注意が必要だ。

 6月6日から9日にかけて、EU(欧州連合)加盟国では欧州議会選挙が実施された。その結果はEU主要国を揺るがしている。

 フランスでは極右政党「国民連合」が圧勝し、この事態を受けてエマニュエル・マクロン大統領は国民議会(下院)の解散に踏み切った。6月30日に実施された総選挙の第1回投票でも欧州議会選挙の勢いのまま、国民連合は34%の得票率を獲得し、第一党となった。またドイツでも極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が第二政党の座を獲得し、さらにイタリアでもジョルジャ・メローニ首相が率いる欧州懐疑派の右派政党「イタリアの同胞」が議席を増やした。

「欧州議会選挙では極右又は欧州懐疑派が伸長」と主要メディアで報じられたが、EU全体の大きな流れとしてはそう言えるだろう。しかし、EUは27の加盟国を持つ多様な存在である。今回の選挙結果もまた各国の事情により様々だった。本稿ではその多様な一例としてスウェーデンを取り上げる。

環境党と左翼党が伸長

 スウェーデンで極右勢力と見なされるのは「スウェーデン民主党」である。2022年の国政選挙では得票率20.5%を獲得し、国内では「社会民主党」に次ぐ第二政党だ。その選挙以降、スウェーデン民主党は、「穏健党」、「キリスト教民主党」及び「自由党」から成る連立政権に閣外から協力し、その議席数の多さから政府の政策に影響を及ぼしている。

 上記のような「極右の伸長」というEUの大きな流れの中で、今回の欧州議会選挙でのスウェーデン民主党の得票率は13.17%だった。この数字は前回の欧州議会選挙の15.3%を下回った。さらにいえば、1991年にコミューン議会(スウェーデンでの基礎自治体に相当するのがコミューン)で初めて議席を獲得して以降、常に得票率を増やしてきたスウェーデン民主党が、今回の欧州議会選挙で初めて得票率を減らしたのだった。

 また、今回の欧州議会選挙でのもう一つの大きなサプライズは、「環境党」がスウェーデン民主党の得票率を抜き、第三政党の地位を獲得したことだった。得票率は13.85%、前回の欧州議会選挙での11.5%よりも増加した。

 それに加え、今回の欧州議会選挙で最も得票率を伸ばしたのが「左翼党」である。前回の欧州議会選挙の結果は6.8%だったが、今回は11.06%だった。

 欧州の主要国では極右や欧州懐疑派が勢力を拡大した中で、スウェーデンでは極右/欧州懐疑派のスウェーデン民主党は得票率を減らす一方、環境党や左翼党が伸長したのである。この要因は何であろうか。本稿では暫定なものであるがそのいくつかを挙げていきたい。

「トロール工場」スキャンダルで守勢に

 まず、スウェーデン民主党の選挙戦略を揺るがしたであろうスキャンダルを挙げたい。

 欧州議会選挙の約1カ月前の5月7日、スウェーデンの民放「テーヴェーフィーラ(TV4)」は、スウェーデン民主党の広報部が匿名でSNS上のアカウントを運営していることをドキュメンタリー番組内で報じた。TV4の記者がスウェーデン民主党の広報部に採用されるという形で潜入し、隠しカメラを用いて広報部内部の様子の撮影に成功し、作成された番組だった。

 特に5月14日の2回目の放送では、TikTokやYouTube、Facebook上でスウェーデン民主党の広報部は23個のアカウントを持ち、合計約26万人のフォロワーを獲得していたことが明らかになった。それらのアカウントでは、政敵を攻撃し、移民に対する不満を過激な形で解消するようなビデオクリップや、現在協力している与党の政治家を揶揄するような画像が投稿されていた。

 実のところ2022年8月には、スウェーデン民主党がインターネット上で偽情報を拡散させるための「トロール(荒らし)行為」に資金を費やしていると、左派系新聞によって報じられていた。当時、スウェーデン民主党は証拠がないとしてその報道を否定していた。

 しかし今回のTV4の番組内では、これらの匿名によるSNS上のアカウントでの活動が明らかになったのである。さらに、スウェーデン民主党のある地方議員はその活動を「『トロール工場』と呼んでもいい」と述べた。

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
鈴木悠史(すずきゆうじ) 大阪大学・京都ノートルダム女子大学非常勤講師。元在スウェーデン日本国大使館専門調査員。専門は国際政治学、スウェーデン外交・安全保障政策、スウェーデン政治。大阪大学外国語学部(スウェーデン語専攻)卒業後、慶応義塾大学法学研究科博士課程を単位取得退学。共著に「COVID-19パンデミックとスウェーデン政治」(岩崎正洋編著『コロナ化した世界—COVID19は政治を変えたのか』勁草書房、2024年)、「スウェーデンを知るための64章【第2版】」(明石書店、2024年)等。
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