
「これからスウェーデンの移民政策では、パラダイムシフトが起きる」
2022年10月18日に就任したウルフ・クリステション首相は最初の施政方針演説でこう宣言した。
この施政方針演説から約2年が経過した2024年8月8日、マリーア・マルメル・ステーネルガード移民大臣(現外務大臣)は移民に関する記者会見を行った。その会見では、EU(欧州連合)内で庇護申請数が増加しているものの、スウェーデンでの庇護申請者数は減少傾向が続いており、本年は1997年以来最低水準の約1万人となる見通しであること、50年ぶりに移出民が移入民を上回ると予想されること、2023年は特にイラク、ソマリア、シリア出身者の移出が多かったこと、そして承認した滞在許可も減少し続けていることが発表された。
1970年代以降、スウェーデンは人道を理由に外国人を受け入れ、その人権を尊重する政府の方針は多くの難民を惹きつけてきた。また、スウェーデンでは難民条約が定める以上のカテゴリーを国内法で設け、「庇護必要者」と認定し難民を受け入れてきた。
近年での象徴的な出来事は2015年のシリア難民受け入れであろう。この年、スウェーデンでは16万人以上の者が庇護申請を行い、人口比ではヨーロッパ最大となる約3万4000人の難民の受け入れを認めた。
しかし冒頭にあるように、クリステション首相は移民政策においてパラダイムシフトを起こすと宣言し、実際にスウェーデンに流入する移民は減少傾向にある。ではこの2年間でスウェーデン政府はどのような措置を講じてきたのだろか。
本稿ではクリステション首相による移民政策のパラダイムシフトの2年間を振り返りつつ、今後の焦点についても論じていきたい。
「月収中央値の80%の給与」を得ることが条件に
クリステション政権は発足後すぐに、移民庁に対して、第三国定住難民の数を当時の年間5000人から900人に引き下げるよう指示した。
他にも、低賃金の労働移民の増加が補助金や生活保護などの社会福祉の不正利用に繋がっているとして、労働移民の条件の厳格化を行った。その結果、労働移民はスウェーデンでの月収中央値の80%である2万7,360スウェーデン・クローナ(SEK:約39万円)(2023年11月1日施行当時)の給与がなければ滞在が認められなくなった。なお、2025年6月1日から月収中央値の給与に引き上げることも検討されている。この条件は、スウェーデン中央統計局(SCB)から毎年発表される月収中央値に応じて変更される予定だ。
さらに移民が家族をスウェーデンに呼び寄せる際の条件も厳格化させた。

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