
頼政権は米国が主導する自由民主主義陣営への接近を唱えるが、中国及び親中派は米国不信論を広めている[米在台協会(AIT)台北事務所の新所長に就任したレイモンド・グリーン氏(左)の話に耳を傾ける頼清徳総統=2024年7月10日、台北・総統府](C)AFP=時事
台湾は新たな緊張感に包まれている。中国からの軍事的な威圧行為は言うまでもない。だが、それにも増して重要な動きが始まったからだ。中国との統一を拒否する頼清徳政権と、立法院を握る対中融和路線の国民党・台湾民衆党が対立を深め、民主主義政府の混乱が出現している。国際的に猛反発を呼ぶ軍事侵攻や経済封鎖ではなく、民主主義的な手続きに則って台湾独立派を骨抜きにするという中国の戦略がうなりを上げて動き出している。その核となるのは米国への不信感である。
6月末に台北で開かれたアジア・ジャーナリズム・フォーラム2024に参加した。そこで聞いたのは、台湾の参加者が口々に語る、中国が親中派勢力を使って台湾政治に対する影響力を強めている事態への懸念である。台湾主要メディア幹部は「台湾の分岐点となる大きな動きの始まりだ」と分析した。
台湾人の6割超が「米国を信頼しない」
台湾の参加者らが指摘したのは、台湾立法院での混乱の深まりだ。多数派を占める野党によって、総統の議会報告義務を定め、また公務員の虚偽陳述を処罰する規定が成立した。中国から独立派と目される頼清徳総統の権限を弱めて、その動きを封じようというものだ。消息通の台湾ジャーナリストや研究者の間では、中国による国民党を使った締め付けとの見方が有力だった。中国も台湾の独立派を処罰する司法手続きを発表した。最高刑は死刑である。中国は香港の政治勢力を分断した上で2020年に香港国家安全法をつくり、一挙に民主化勢力を排除して香港を共産党直轄に置いたが、その大胆な手法を彷彿させる。
中国は頼清徳総統の就任に合わせて軍事演習を行い、台湾からの製品輸入への優遇措置を撤廃するなど、揺さぶりを強化している。台湾の外交政策に詳しい遠景基金会会長の頼怡忠は、頼総統は議会の主導権を奪われたために台湾防衛に必要な予算を得ることが困難になろう、と予測する。そうなれば、台湾は軍事的にますます強大となる中国に対して弱体化を避けられない。
台湾の独立を支持しないから安心しろという米国の働きかけもあり、中国は頼の総統就任を声高に非難せず、表向きは抑制された反応をした。だが、水面下で進む統一への着実な動きは神経戦そのものだ。
興味深かったのは、台湾では米国との関係が世論を分断する争点となっていたことだ。中国や親中派は米国不信論を促し、台湾人に「米国よりも中国を大事にしよう」という主張を広めている。

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