新型コロナウイルス感染者が急増している。7月15〜21日の定点あたりの患者数は13.6人で、前週から2.4人増加した。患者数の増加は11週連続で、コロナ第11波が到来したと言っていい。
2020年以降、コロナは夏と冬に流行を繰り返してきた。夏の流行のピークは8月半ば〜9月初旬にかけてだから、当面、感染は拡大するだろう。
第11波で、我々は何を注意すべきか。
最優先は高齢者だが、家に閉じこもれば弊害も
最優先すべきは、高齢者を感染から守ることだ。オミクロン株が流行の主体となった現在も、依然としてコロナは恐るべき感染症だ。2023年にコロナによって亡くなった人数は人口10万人あたり16人。流行のピークだった2022年の38人からは大幅に減ったが、死因の1.3%を占める。インフルエンザ(人口10万人あたり1人)の16倍で、アルツハイマー病(同20人)による死亡と同レベルだ。熱中症による死亡(0.1人)の188倍である。
コロナに限らず、高齢者は風邪をこじらせて亡くなることが珍しくない。コロナの問題は、感染力が強いことだ。感染しても無症状の人がいるため、流行を予防するのは困難だ。
マスクについても過度な期待は抱かない方がいい。2022年2月に韓国のサムスンメディカルセンターの医師たちが『医療ウイルス学誌』に発表した論文によれば、一般人がサージカルマスク(普通のマスク)を着けた場合の感染予防効果は22%に過ぎなかった。
高齢者が、コロナを完全に予防したければ、家に閉じこもって誰にも会わないようにするしかない。コロナ流行当初、多くの高齢者がこのような対応をとった。だが、こうすれば確かにコロナ感染は予防できるが、体力を落としてしまう。2020年の老衰による死者数は人口10万人あたり105人、21年は121人だ。2019年の96人から、20年は9人、21年は25人増えている。これは、2020年、21年のコロナの人口あたり死者数2.7人、13.4人を大きく上回る。コロナ対策は成功したが、高齢者の健康維持には失敗したという見方も可能だ。
では、どうすればいいのか。私は、外来診療に訪れる高齢者には、最終のワクチン接種時期を聞くことにしている。そして、2023~24年の冬にコロナワクチンを接種していない人には、再接種を勧めている。
最も強力な感染症対策はワクチンだ。ところが、日本はワクチンへの信頼度が低いためか、正確な状況が国民の間でシェアされていない。
日本の特徴は、ワクチンの安全性に対する懸念が強いことだ。「99%評価不能なのに「安全」? 日本のワクチン評価制度の課題」(毎日新聞5月8日)のような記事が目立つ。ワクチンの追加接種に不安を抱く読者もおられるだろう。
ワクチンに言及しないことも珍しくない。「新型コロナ「第11波」か 感染者増加、変異株も流行―厚生労働省「手洗いなど対策を」」(時事通信7月23日)など、その典型例だ。この記事では、手洗いに加え、マスクや換気の重要性を訴えているが、ワクチンには言及していない。
マスクの限界については前述した。換気はともかく、空気感染によって拡大するコロナに対して手洗いの効果は限定的だ。この記事では、「高齢者や基礎疾患のある人が感染すれば重症化リスクも高まる」という厚労省の考えを紹介しているが、コロナ重症化予防に最も有効であることが証明されているワクチンに言及しないのは異様だ。
海外は違う。米ニューヨークタイムズなどが、6月27日に米疾病対策センター(CDC)が発表した「最新の新型コロナワクチンの接種を生後6カ月以上の米国民に推奨する」と伝えたように、専門家がワクチンの必要性を説き、それをメディアが報じている。
重症化は高率に予防、問題は「何回」接種すべきか
コロナについては、まだ分からないことが多い。専門家がすべきは、現時点でのコンセンサスと分からないことを伝え、国民、主治医とともに判断する材料を提供することだ。
コロナワクチンの感染予防効果は決して高いとは言えないが、重症化は高率に予防する。問題は、何回接種すべきかだ。この問題については、現時点で医学的なコンセンサスは形成されていないが、いくつか研究結果が報告されている。
その一つが、今年2月、英国の研究チームが英『ランセット』誌に報告したものだ。彼らは英国のワクチン接種データベースに登録された約6820万人のデータを用いて、ワクチン接種回数と重症化の関係を調べた。
この研究では4回以上の接種を標準として、それ以下の接種回数と比較している。4回以上の接種を済ませていたのは約3880万人(57%)で、残りの約2940万人(43%)の接種回数は3回以下だったが、4回以上の接種者と比べて、3回以下の人は重症化するリスクが高かった。特に75歳以上の高齢者でその傾向が強く、未接種(0回接種)で3.1倍、3回接種で2.7倍だ。
この研究結果を解釈するにあたり、二つの可能性がある。一つは、高齢者に対しては、少なくとも4回以上の接種が必要である可能性、もう一つは最終接種から間隔があくと、感染予防だけでなく、重症化の予防効果も低減する可能性だ。現時点で、いずれの影響が強いのか、結論は出ていない。
ただ、コロナは、一回感染すれば、永久免疫を獲得する麻疹や風疹と異なり、インフルエンザのように何度も感染を繰り返す。感染やワクチン接種から時間が経てば、免疫が弱まる。このような感染症では、定期的なワクチン接種が必要なのだろう。
自己負担では接種できる人が限られる
世界は、その準備を進めている。わが国も同様だ。今秋からコロナワクチンの定期接種が始まる。対象は65歳以上あるいは60~64歳で基礎疾患がある人だ。費用は原則として有料だが、自己負担が最大7000円となるよう助成される。米CDCと異なり、接種対象者を限定しているものの時宜を得た対応である。
ただし、私が疑問に思うのは、厚生労働省が秋まで接種開始を待つことだ。同省のホームページには、公費接種が終了した今年4月1日から今秋の定期接種開始までは、「ご希望の方は、任意接種として、自費で接種していただくことになります」とある。私が勤務するナビタスクリニック新宿の場合、コロナワクチンの接種費用は1万7600円だ。大きな負担である。
これはナンセンスだ。2023~24年の冬にワクチンを接種していない人は、少なくとも1年程度、コロナワクチンを接種していない。免疫は低下しており、重症化しやすい。高齢者に限定すれば、今夏にワクチンを接種することは、デメリットよりメリットの方が遥かに大きいだろう。なぜ、コロナワクチンの定期接種を数カ月早めなかったのだろうか。
厚労省にも言い分はあるだろう。現在、わが国で流通しているコロナワクチンは、オミクロン株対応1価ワクチン(XBB.1)だ。一方、世界で感染が拡大しているのは、2023〜24年の冬に流行したオミクロン株の亜系統JN.1の子孫株であるKP.3、LB.1、KP.2.3だ。オミクロン株対応1価ワクチン(XBB.1)は効きにくいと考えられている。厚労省は、今秋以降の定期接種にJN.1対応ワクチンを採用する方針を決めている。
これも時宜を得た対応だが、このワクチンが投入されるまで、オミクロン株対応1価ワクチン(XBB.1)の接種費用を、なぜ助成しないのだろうか。患者の選択肢を増やすことになるはずだ。自己負担にすれば、接種できる人は限られる。これでいいのだろうか。
コロナは、現在も国民の生命に直結する重大な問題だ。その死者数は、インフルエンザや熱中症とは比べものにならない。ワクチンによって重症化や死亡が予防できるのだから、今夏、接種費用の助成を再開すべきである。