【前回まで】太平洋側の住民が危機意識を持つには、身近にミサイルが飛来するほどの事態が必要なのか…。都倉防衛大臣に急報が入る。北朝鮮のミサイルが東京湾に弾着予想!
Episode7 独立独歩
5(承前)
「東京湾に警報を鳴らしましょう」
都倉としては、少しでも被害を抑えたい。
「時間的に厳しいですが、大臣として統幕長に指示はなさるべきかと」
「じゃあ、統幕長に繋いで」
そのとき、都倉の携帯電話に、南郷からの着信があった。
“ミサイルの着弾予想が、東京湾というのは、間違いないのか”
「確認しています。総理、東京湾にいる船舶に連絡すべきかと」
“して、どうなるんだね?”
マッハの速度で落下するミサイルを避けることはできない。
「少なくとも、船内の安全な場所に避難できます。それに、Jアラートは、船舶の乗員にも届いています」
既にパニックは始まっていると考えるべきだ。
“海保や警察庁の担当者には、連絡済みだ”
「ありがとうございます」
“撃ち落とせるかね?”
「撃ち落とさせます」
何の保証もない言葉が、自然に零れた。
「統幕長と繋がりました」
樋口がスマホを差し出すと、都倉はスピーカーフォンにして話し始めた。
「安城[あんじょう]さん、必ず迎撃して下さい。東京湾の船舶には、警報を鳴らしますが、湾に落ちたら、甚大な被害は避けられません。
迎撃のためにできることを全てやって下さい」
“承りました”
安城とは、この1年、何度もミーティングを繰り返し、本土飛来の際の対応について踏み込んだ議論を続けてきた。
シミュレーターを使って、東京湾への飛来を想定した対策も練っている。それが奏功してくれれば、いいのだが……。
“レーダーでミサイル捕捉、イージス艦からミサイル発射”
樋口のスマホのスピーカーから、統合幕僚監部の声が聞こえる。
“第1弾、迎撃できず。第2弾発射、パトリオットミサイル発射……”
息をするのも忘れて都倉は、両手を握りしめた。
お願い、神様、命中させて下さい!
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