オペレーションF[フォース] (79)

連載小説 オペレーションF[フォース] 第79回

執筆者:真山仁 2024年8月24日
タグ: 日本
エリア: その他
(C)EPA=時事[写真はイメージです]
国家存続を賭けて、予算半減という不可能なミッションに挑んだ「オペレーションZ」。あの挫折から5年、新たな闘いが今、始まる。防衛予算倍増と財政再建――不可避かつ矛盾する2つが両立する道はあるのか? 目前の危機に立ち向かう者たちを描くリアルタイム社会派小説!

【前回まで】太平洋側の住民が危機意識を持つには、身近にミサイルが飛来するほどの事態が必要なのか…。都倉防衛大臣に急報が入る。北朝鮮のミサイルが東京湾に弾着予想!

 

Episode7 独立独歩

 

5(承前)

「東京湾に警報を鳴らしましょう」

 都倉としては、少しでも被害を抑えたい。

「時間的に厳しいですが、大臣として統幕長に指示はなさるべきかと」

「じゃあ、統幕長に繋いで」

 そのとき、都倉の携帯電話に、南郷からの着信があった。

 “ミサイルの着弾予想が、東京湾というのは、間違いないのか”

「確認しています。総理、東京湾にいる船舶に連絡すべきかと」

 “して、どうなるんだね?”

 マッハの速度で落下するミサイルを避けることはできない。

「少なくとも、船内の安全な場所に避難できます。それに、Jアラートは、船舶の乗員にも届いています」

 既にパニックは始まっていると考えるべきだ。

 “海保や警察庁の担当者には、連絡済みだ”

「ありがとうございます」

 “撃ち落とせるかね?”

「撃ち落とさせます」

 何の保証もない言葉が、自然に零れた。

「統幕長と繋がりました」

 樋口がスマホを差し出すと、都倉はスピーカーフォンにして話し始めた。

「安城[あんじょう]さん、必ず迎撃して下さい。東京湾の船舶には、警報を鳴らしますが、湾に落ちたら、甚大な被害は避けられません。

 迎撃のためにできることを全てやって下さい」

 “承りました”

 安城とは、この1年、何度もミーティングを繰り返し、本土飛来の際の対応について踏み込んだ議論を続けてきた。

 シミュレーターを使って、東京湾への飛来を想定した対策も練っている。それが奏功してくれれば、いいのだが……。

 “レーダーでミサイル捕捉、イージス艦からミサイル発射”

 樋口のスマホのスピーカーから、統合幕僚監部の声が聞こえる。

 “第1弾、迎撃できず。第2弾発射、パトリオットミサイル発射……”

 息をするのも忘れて都倉は、両手を握りしめた。

 お願い、神様、命中させて下さい!

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
真山仁(まやまじん) 1962(昭和37)年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004(平成16)年に企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』で衝撃的なデビューを飾る。同作をはじめとした「ハゲタカ」シリーズはテレビドラマとしてたびたび映像化され、大きな話題を呼んだ。他の作品に『プライド』『黙示』『オペレーションZ』『それでも、陽は昇る』『プリンス』『タイムズ 「未来の分岐点」をどう生きるか』『レインメーカー』『墜落』『タングル 』など多数。
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