Weekly北朝鮮『労働新聞』 (87)

統一という「非現実的な認識」を払拭、「主体」年号も消える(2024年10月13日~10月19日)

執筆者:礒﨑敦仁 2024年10月21日
エリア: アジア
10月17日、朝鮮人民軍第2軍団指揮部を訪問した金正恩国務委員長(C)AFP=時事
韓国を敵対国家として規定する憲法改正は、最高人民会議の開催から1週間以上過ぎて公にされた。『労働新聞』では10月13日付以降、1997年から使用されてきた「主体年号」も削除されており、金日成・金正日時代の政策からの転換が窺える。【『労働新聞』注目記事を毎週解読】
 

 金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長は、今年1月15日の施政演説で韓国を「第1の敵対国、不変の主敵」と定めるよう憲法改正を指示していたが、10月7日、8日の最高人民会議で行われた憲法改正がその点に及んだかどうかについては明らかにされていなかった

 対韓・統一政策について憲法が改正された事実は、意外な形で表面化した。10月16日に朝鮮中央通信社が「朝鮮民主主義人民共和国の南部国境の東・西部地域で大韓民国と連結された道路と鉄路を完全閉鎖」と題する記事を発表し、15日に南北連結道路と線路を爆破したことについて、「大韓民国を徹底的な敵対国家と規定した共和国憲法の要求」だと述べたのである。『労働新聞』では翌17日付第1面下段に掲載された。

 爆破を前にした13日には「無謀な挑戦の客気は大韓民国の悲惨な終焉を早めるであろう」と題する金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党中央委員会副部長の談話が発表され、翌14日付の『労働新聞』1面トップにも掲載された。先立って『労働新聞』13日付の第1面下段には、12日の金与正談話「韓国軍部は重大主権侵害挑発の主犯または共犯の責任から免れるのは難しいであろう」が掲載されていた。最高指導者の本音を代弁しているものと考えられる金与正名義の談話が、国内向け媒体である『労働新聞』の第1面に掲載されたのは今回が初めてであり、韓国が主敵であることを国民に徹底させるための措置だと解釈できる。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
礒﨑敦仁(いそざきあつひと) 慶應義塾大学教授。専門は北朝鮮政治。1975年生まれ。慶應義塾大学商学部中退。韓国・ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省第三国際情報官室専門分析員、警察大学校専門講師、米国・ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロー・ウィルソンセンター客員研究員など歴任。著書に『北朝鮮と観光』(毎日新聞出版)、共著に『最新版北朝鮮入門』(東洋経済新報社)など。
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