トランプ再選で改めて注目される「BRICS拡大」と「脱ドル化」の行方(後編)

執筆者:篠田英朗 2024年11月19日
BRICSの目指す「脱ドル化」とは、基本的には国際金融システムにおける決済通貨の「多元化」を意味する[G20首脳会議の第2セッションに出席した新開発銀行(NDB=旧BRICS銀行)のディルマ・ルセフ総裁=2024年11月18日、ブラジル・リオデジャネイロ](C)AFP=時事
統一性を欠くBRICSはいずれ空中分解するとの見方もある。しかし、一元的な経済システムと安全保障システムとして構成されたEUやNATOとは違い、多元主義を掲げるBRICSはバラバラであること自体が共通の利益だ。BRICS首脳会議に合わせ、中国とインドが国境紛争の緩和につながる合意を締結したように、BRICSが共通利益の調整をするフォーラムとして機能していることが注目される。

アフリカ大陸の5つの「準地域」を網羅

 今回新たにBRICSのパートナー国となった13カ国のうち、トルコは、ユーラシア中央部のロシアと中東を結ぶ地域大国のパートナー加盟国として、注目に値する。旧ソ連圏からもベラルーシ、カザフスタン、ウズベキスタンがパートナー国となった。BRICSを通じてロシアが立場の強化を図ろうとしている動きがさらに明確になった。
 アフリカからは、カザンに代表を送っていなかったナイジェリア、ウガンダ、そしてアルジェリアがパートナー国となった。アフリカでは、北部・東部・中部(大湖地域)・南部・西部という「準地域」の考え方が強く、大陸全体を扱うアフリカ連合(AU)も、5つの準地域機構と密接な結びつきをもって運営されている。南部アフリカの南アフリカ、昨年加入した東部のエチオピアに加えて、西部のナイジェリア、中部(大湖地域)のウガンダが加盟する手続きに入ったことによって、BRICSはおおむね5つの準地域から加盟国を迎え入れる仕組みが整うことになった。

 なおアルジェリアについては、昨年に加盟に強い意欲を見せながら、エジプトの加盟だけが認められたことに立腹し、BRICSへの態度を硬化させたと伝えられていた。これを考慮して、北部からは特別に二つの有力国が加盟する流れとなった。このような調整措置は、今後も引き続き導入されていくだろう。それにしてもアフリカの準地域の仕組みを十分に意識したうえで、拡大が進められていることは、戦略的な計算を施したうえでの拡大であることを印象付ける。

 ユーラシア中央部「ハートランド」のロシアから、中東を貫通してアフリカ大陸に伸びていく加盟国の並び方は、今やBRICSの背骨と言ってもよいほど、太い柱になり始めている。ユーラシア大陸とアフリカ大陸の接合性に着目し、両者をあわせて「世界島」と呼んだのは、イギリスの代表的な地政学理論家ハルフォード・マッキンダーだったが、プーチン大統領がこのような地政学の考え方に深い関心を持っているだろうことがうかがえる。

東南アジアからも複数の加盟国候補

 今回のパートナー国拡大におけるもう一つの大きな焦点は、東南アジア諸国の動向だ。この地域では、ASEAN(東南アジア諸国連合)創設国5カ国の国力が大きい。そのうちの3カ国(インドネシア、マレーシア、タイ)が、親露的なベトナムとあわせて、今回BRICSのパートナー国になった。特に人口やGDP(国内総生産)において圧倒的な存在感を持つインドネシアが入った意味は大きい。同国とマレーシアはマラッカ海峡を管理する重要な2カ国でもある。現在のASEANで明確に親米的で反中的な政策をとっている有力国は、フィリピンくらいだろう。残る有力国のシンガポールは、豊かな国ながら小国であるため、より穏健で中立的である。BRICSは今後、地域としての東南アジア全体を取り込んでいくための強固な基盤を獲得したと言える。これは中国にとっても大きな勝利だろう。

カテゴリ: 政治 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
篠田英朗(しのだひであき) 東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学大学院政治学研究科修士課程、ロンドン大学(LSE)国際関係学部博士課程修了。国際関係学博士(Ph.D.)。国際政治学、平和構築論が専門。学生時代より難民救援活動に従事し、クルド難民(イラン)、ソマリア難民(ジブチ)への緊急援助のための短期ボランティアとして派遣された経験を持つ。日本政府から派遣されて、国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)で投票所責任者として勤務。現在も調査等の目的で世界各地を飛び回る。ロンドン大学およびキール大学非常勤講師、広島大学平和科学研究センター助手、助教授、准教授を経て、2013年から現職。2007年より2024年まで外務省委託「平和構築人材育成事業」/「平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業」を、実施団体責任者として指揮。著書に『平和構築と法の支配』(創文社、大佛次郎論壇賞受賞)、『「国家主権」という思想』(勁草書房、サントリー学芸賞受賞)、『集団的自衛権の思想史―憲法九条と日米安保』(風行社、読売・吉野作造賞受賞)、『平和構築入門』、『ほんとうの憲法』(いずれもちくま新書)、『憲法学の病』(新潮新書)、『パートナーシップ国際平和活動』(勁草書房)など、日本語・英語で多数。
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