「対外開放重視」回帰の矢先に「トランプ再登場」、習近平の戦術は?

執筆者:宮本雄二 2025年1月15日
エリア: アジア
米国に無難に対応しすぎると軟弱だと見られ、国内が持たない。だが、やられたからといって、そのままやり返すわけにもいかない[テレビ演説で国民に向けて新年の祝辞を伝える習近平国家主席=2024年12月31日、中国・北京](C)EPA=時事
バイデン政権を経験して、中国はアメリカとの長期戦を戦い抜く覚悟を、さらに強めている。中国の根幹に「東昇西降(中国は昇り、米国は降る)」という世界情勢認識がある以上、トランプ再登場も長期戦略を変更させるものではないだろう。ただし、このために進めた対外依存低下は中国経済の大きな足かせとなっており、習近平は再び対外開放重視に舵を切り直している。まさにその出鼻を挫くタイミングで第2次トランプ政権が発足する。中国は、ここをどう乗り切るのであろうか。

 まもなくドナルド・トランプ大統領の第2期が始まる。われわれも第1次トランプ政権の4年の経験はあるが、それでも依然としてトランプの不測の動きを恐れ、世界の不安定化を恐れている。一応の心の準備はあるとはいえ、固唾を呑んで、その動静を見守っていると言って良い。中国はどうなのであろうか。ところが、中国の声はなかなか聞こえてこない。トランプ大統領が初登場した8年前は、もっといろんな声が聞こえてきた。この8年で、それだけ中国国内の情報管理は厳しくなっているということでもある。やはり8年前に戻り、その後のトランプ時代、バイデン時代を、中国はどのように総括してきたかを振り返るしか、中国の現在の対米認識とトランプへの対応を正確に把握する手立てはなさそうだ。

 面白いことに、たった8年をふり返っただけでも、いわゆる習近平路線といわれるものが、内外の様々な要素の影響を受けながら重層的、多面的に生成発展してきたことが分かる。復習となるが、しばしお付き合い願いたい。

二度の首脳会談で空振りした習近平

 対米関係をとってみれば、習近平も、最初はトランプとの個人的な関係を構築することに努力している。2017年4月、フロリダまで赴いてトランプ大統領と会談したし、11月には北京で超弩級の歓迎をし、2500億ドルの商談という土産まで持たせて帰し、大成功したかに見えた。しかし、4月の首脳会談は、対北朝鮮制裁の一環としてではあったが6~8月にかけての米国による中国企業への制裁を阻止できず、11月の首脳会談も翌18年3月の、台湾との公的交流をレベルアップさせる台湾旅行法への大統領署名を止めることはできなかった。

 2018年6月、米国は対中経済制裁の強化を発表し、中国も対抗措置を取った。中国のナショナリズムは反米感情をさらにかき立て、トランプ政権が「以戦逼降(攻勢を仕掛けることで降伏させる)」で来るのなら、中国は「以戦止戦(攻勢を以て攻勢を止める)」だ、という国内世論は強まった。同年6月の新華社の記事も「以戦止戦、不得不為(挑まれれば応戦あるのみ)」という表現を使っている。中国の政策が世論の強い影響を受けている証左だが、これでは米中は衝突コースを歩み、中国経済の持続的発展が損なわれる。

 そこで2018年12月頃、「対抗せず、冷戦に持ち込まず、段階的に開放するが、国家の核心利益については譲らない(不対抗、不打冷戦、按歩伐開放、国家核心利益不退譲)」という中国語で21文字の対米基本方針を定めた。沸き立つ国内の反米感情を前に、指導部として対米交渉を続けるための考え方を整理したと見て良い。だが19年12月には中国の武漢市において新型コロナが発生し、20年になると全世界に蔓延した。世界は没交渉となり、新型コロナをめぐる米中の非難合戦は泥仕合となり、中国の「戦狼外交」は勢いを増した。このコロナ禍は、世界を大きく変えた。米中対峙の構図は定まった。

2017年、中国側は党大会で何を打ち出したか

 バイデン政権は、米中の競争が対立とならないように努力したが、米中対峙の基本構造はさらに強固なものとなった

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
宮本雄二(みやもとゆうじ) 宮本アジア研究所代表、元駐中国特命全権大使。1946年福岡県生まれ。69年京都大学法学部卒業後、外務省入省。78年国際連合日本政府代表部一等書記官、81年在中華人民共和国日本国大使館一等書記官、83年欧亜局ソヴィエト連邦課首席事務官、85年国際連合局軍縮課長、87年大臣官房外務大臣秘書官。89 年情報調査局企画課長、90年アジア局中国課長、91年英国国際戦略問題研究所(IISS)研究員、92年外務省研修所副所長、94年在アトランタ日本国総領事館総領事。97年在中華人民共和国日本国大使館特命全権公使、2001年軍備管理・科学審議官(大使)、02年在ミャンマー連邦日本国大使館特命全権大使、04年特命全権大使(沖縄担当)、2006年在中華人民共和国日本国大使館特命全権大使。2010年退官。現在、宮本アジア研究所代表、日本アジア共同体文化協力機構(JACCCO)理事長、日中友好会館会長代行。著書に『これから、中国とどう付き合うか』『激変ミャンマーを読み解く』『習近平の中国』『強硬外交を反省する中国』『日中の失敗の本質 新時代の中国との付き合い方』『2035年の中国―習近平路線は生き残るか―』などがある。
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