海水温上昇で北へ向かうサンゴの運命――いずれは「温暖化」と「酸性化」の板挟みに?

執筆者:安田仁奈 2025年4月14日
陸から見えないために実感がわきにくいものの、気候変動にともない海の中は劇的に変化している (C)aquapix/stock.adobe.com
地球温暖化による海水温上昇で、静岡県駿河湾では北上してきた13種の南方系サンゴが初観測された。一方で、もともとそこに生息していたサンゴの中には、分布範囲が大幅に縮小し絶滅の危機に瀕している種もある。また、寒い海には二酸化炭素が溶け込みやすく、海洋酸性化が進行する。海洋酸性化はサンゴの骨格の成長を妨げるため、生息域を拡大している種もこのまま北上し続けられるかはわからない。

 気候変動の影響は世界中の海に広がり、沿岸生態系も大きな変容を遂げつつある。特に日本の太平洋沿岸は、世界的に見ても海水の温暖化が最も早く進んでいる場所の一つである。かつては生息していなかった地域で造礁サンゴ(以下サンゴ)の仲間が次々と見つかり沿岸の景観を大きく変えている。熱帯域では、サンゴ礁生態系によって維持されていた海洋生物多様性を高水温ストレスが大きく脅かす中、その影響が比較的少ない温帯域の沿岸は、サンゴやサンゴ礁生態系に生息する種の避難所として期待されている。

 しかし実態はそれほど単純なものなのだろうか? 本稿では、日本近海の熱帯から温帯域にかけて起きている気候変動にともなう沿岸生態系の変化について概要を示す。同時に、サンゴの最北限域の一つである静岡県沼津市周辺(駿河湾内浦)での調査を中心に、温帯サンゴの北上の裏で縮小するサンゴ種の存在と生態系への影響、そして我々人間社会がどのように対応していくべきかについて考えてみたい。

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カテゴリ: 医療・サイエンス
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執筆者プロフィール
安田仁奈(やすだにな) 東京大学大学院農学生命科学研究科教授。東京都生まれ。早稲田大学理工学部卒業、東京工業大学情報理工学研究科修了(博士)。宮崎大学農学部准教授などを経て、現職。海洋生物環境科学分野の研究を行う。訳本に『グローバル変動生物学:急速に変化する地球環境と生命』(朝倉書店、共訳)がある。
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