
2022年2月に勃発し、3年以上が過ぎたロシア・ウクライナ戦争であるが、2022年秋に核を巡る危機があった1。ウクライナの反攻が効を奏していた際、米国の情報機関はロシアが戦局を打開するために、核兵器の使用について内部で議論する会話が行われたことを傍受した。CIA(米中央情報局)は、ウクライナの反攻の進展によっては、核の使用の可能性は50%以上に上がる可能性があると警告を発した2。ジョー・バイデン大統領(以下、米側の肩書は当時)は、支持者に対して、「キューバ・ミサイル危機以来初めて、われわれは事態の展開次第で核兵器が使用されかねない直接の脅威に直面している」と語った3。
米国は核危機を避けるために、さまざまな手を打った。ジェイク・サリバン国家安全保障問題担当大統領補佐官、ロイド・オースティン国防長官、ウィリアム・バーンズCIA長官などがロシアに警告を伝えた。ロシアが核を使用すれば、「米側がウクライナと自らに課してきた制限や規制が再考される」4、「ロシアにとって明白な帰結がある」5、「米側はウクライナにおけるロシア軍を破壊する」6。
こうしたロシアに対する直接のメッセージと共に、アントニー・ブリンケン国務長官は、中国とインドを関与させようとした。ウクライナ侵攻後もロシアとの緊密な関係を維持している両国から、ウクライナにおいて核兵器は決して使用されてはならないとロシアに伝えてもらうことが目的であった。「こうした外交は事態への対処において極めて重要であった」とブリンケンは後に述べた7。ロシアには友人が多くない。核に手を伸ばそうとすれば、中国もインドもロシアから距離をとろうとするに違いない、そうした計算であった。

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