韓国は「核武装」に向かうのか――その課題と代替案から見たリアリティ・チェック

執筆者:北野充 2025年2月25日
タグ: 韓国 原発
韓国にとって核保有とNPT脱退で原子力発電の国際的ネットワークから外れることはエネルギー問題にも直結する[新ハヌル原発1・2号機の竣工を祝うスピーチを行った尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領=2024年10月30日、韓国・慶尚北道蔚珍郡](C)EPA=時事
韓国で核武装論が改めて高まりを見せている。北朝鮮での核開発進展、米国の防衛コミットメントへの不安などが大きいが、韓国の安全保障に不確実性が高まっているのは現実だ。NPT体制との関係やエネルギー供給への影響など核保有と切り離せない課題を確認し、韓国安保関係者が議論する他の政策オプションも視野に入れてリアリティ・チェックを試みる。

 韓国の内政の混乱が日本においても大きな関心を集めているが、どのような政権が国政を担うこととなっても避けては通れない問題がある。核保有の是非である。

 日本でもよく報道されるように、韓国の世論調査における核保有支持の声は極めて大きい。この点を継続的に調査している韓国統一研究院の世論調査によれば、核保有の支持率は近年で見れば、2021年10月で71.3%、2022年4月で69.0%、2023年4月で60.2%と継続的に高い比率を示している1

 他の機関の調査においても、核保有の支持率は軒並み高い。国立ソウル大学統一平和研究院の調査では55.5%、SAND南北コリア研究所では74.9%、アサン政策研究院では70.2%が核保有を支持している2

 こうした世論調査については、「誰にどのように聞くかのやり方次第」「実際の政策選択に直接に結びつくものではない」との指摘もあるが、韓国で核保有の是非が公の場で盛んに議論される状況となっていることは事実である。

韓国の核武装論はなぜ生まれるか

 こうした韓国での核保有への関心は何から生まれているのだろうか。

 スタンフォード大学のスコット・セーガンは、核開発の推進要因について、①安全保障の確保、②国家の威信、③原子力コミュニティの影響力の三点を提示した3。セーガンが第一点として安全保障の確保を挙げているとおり、現在の韓国での核保有への関心が、北朝鮮の核開発の進展と米国の防衛コミットメントへの不安から生まれてきていることは明らかであろう。北朝鮮が核戦力を拡大し、米国本土もその射程に入る中、韓国が攻撃を受けた際に米国がリスクを冒して実際に報復するかどうかに疑問が呈されている。さらに、ドナルド・トランプ米大統領が同盟関係に基づくコミットメントの履行を否定するかのような発言を行ってきたことが、拡大抑止の有効性への不安をかき立てている。

 セーガンが第三点として挙げた原子力コミュニティの影響力は現下の韓国においては顕著なものとは思われないが、第二点の国家の威信についてはどうであろうか。

 CSIS(米戦略国際問題研究所)は、2024年1月から3月の間に、韓国の「戦略エリート」を対象に、核保有をテーマとするアンケート調査を行い、核兵器を保有すべきだと答えた者に対してその理由を尋ねた4。回答の加重平均を見ると、「北朝鮮に対する独立の防衛能力」が37%、「長期的に見て米国の安全保障上のコミットメントが失われる可能性」が28%、「中国とロシアに対する独立の防衛能力」が22%であり、「核兵器を保有することによる地位・威信」は12%であった。

 12%は必ずしも高い数字ではないが、こうしたアンケート調査で理由・動機の見えない部分をどこまで明らかにすることができるかについては疑問の余地もある。

 韓国における核武装論者の一人である世宗研究所朝鮮半島戦略センター長の鄭成長(チョン・ソンジャン)は、核武装論を展開した著書において、フランスが核保有によって外交的地位を高めた例を引いて、「韓国がもし核兵器を保有することになれば、核の脅威から自由になり、外交的空間が広がり、国際的地位にふさわしい、より活発な外交活動を展開できるようになり、外交的地位が今よりもはるかに高くなるものと予想される」と主張している5

 韓国の専門家と意見交換すると、核保有論の高まりの背景として、国家的威信、抑止、国内の政治的考慮の三つを挙げる者がいる。米韓同盟が機能するとしても、「関係ない。核が必要」と主張する層が存在するとの指摘も聞かれる。韓国は折に触れて大国たらんとする意欲が垣間見える国であるが、核保有論者の中にも、セーガンのいう「国家の威信」要因が働いていることがうかがわれる。

エネルギー供給や技術面にも及ぶ課題

 世論調査や理由・動機は横に置くとして、現実に、韓国が核保有に向かうことはあり得るのだろうか。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
北野充(きたのみつる) 1957年生まれ。東京大学文学部社会学科卒。ジュネーブ大学(国際問題高等研究所)修士。一般財団法人 自治体国際化協会 参与。外務省において軍縮不拡散・科学部長、在ウィーン国際機関日本政府代表部大使、駐アイルランド大使を務める。著書に『パブリック・ディプロマシー―「世論の時代」の外交戦略』(PHP研究所、2007年、共編著)、『ビジネスパーソンのためのツイッター時代の個人「発信」力』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2010年)、『パブリック・ディプロマシー戦略―イメージを争う国家間ゲームにいかに勝利するか』(PHP研究所、2014年、共編著)、『核拡散防止の比較政治―核保有に至った国、断念した国』(ミネルヴァ書房、2016年)、『アイルランド現代史―独立と紛争、そしてリベラルな富裕国へ』(中公新書、2022年)など。
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