在日フィリピン人の知られざる「高齢化問題」――健康・経済のみならず、財産管理、家族に加わる親戚への送金圧力も

執筆者:鈴木美香 2025年5月6日
タグ: 日本 移民
1980~90年代に増加したフィリピンや南米からの移住者が高齢期を迎えている[2019年11月25日、来日したフランシスコ教皇が執り行ったミサをライブ配信で見守るフィリピン人女性たち=東京ドーム](C)REUTERS/Kim Kyung-Hoon
2024年6月末現在で、国内の外国人高齢者の数は約23万人に達した。オールドカマーの在日コリアンや中国残留孤児などに続き、今後はフィリピン人などニューカマーの問題が顕在化すると予想される。特にフィリピンからの移住者については、本人の健康・経済問題に加え、本人が母国に持つ財産の管理、親戚への送金といった文化的背景とも結びついた悩みを抱える家族が少なくない。

 

増え続ける在日外国人高齢者

 日本では高齢化社会というと、日本人の高齢化を想定した議論になりがちである。しかし、日本には2024年末時点で約377万人の外国人が住み、その中には高齢者もいる、そしてその数が増えているという事実を認識している人はどれぐらいいるだろうか。日本に住む外国人のうち65歳以上の人口は1984年には5万人弱に過ぎなかったが、2004年には約11万人、2024年6月末には約23万人と20年前と比較して2倍以上となった(図1)。

 65歳以上の在留外国人の国籍(地域)別人口構成(2024年6月末時点)をみると、韓国籍が54.8%と最多を占める(図2)。これと中国(13.7%)だけで全体の7割近く割を占める。韓国籍の高齢者の多くが在留資格「特別永住者」を持つ在日コリアン、中国籍の高齢者の多くが中国残留孤児をはじめとする中国帰国者である。

 在日外国人の高齢化問題は1980年代に認識され始め、自治体や学者によって在日コリアンや中国帰国者などのオールドカマーを対象とした調査・研究が行われてきた。オールドカマーが多い地域の動きをみると、行政による施策が講じられているほか、いくつかの高齢者福祉施設で彼らの母語や文化を取り入れたサービスが提供されている。

 近い将来オールドカマーに続いて高齢者関連の問題が顕在化するとみられているのは、1980~90年代にフィリピンや南米から来た日系人などのニューカマーである。その多くは在留資格「永住者」「定住者」を持つ。今後は在日外国人高齢者の「多様化」「多国籍化」「多文化化」が一層進むとみられている。

女性の永住・定住者が多い在日フィリピン人

 フィリピン人の人口は2024年末現在約34万人に上る(在日外国人全体の9.1%)。在留資格別(2024年6月末現在)では「永住者」(約14万人)が最も多く、これに「定住者」(約6万人)、「技能実習」(約4万人)が続く。男女比では、男性が33.9%であるのに対し、女性は66.1%となっており、女性の割合が高いことが特徴的である。

 在日フィリピン人人口は1984年の時点では数百人であったが、在留資格「興行」の下で興行労働者としてやってきた女性が増えたこと、彼女たちの多くが日本人と結婚し日本に定住するようになったことを受け、1992年に約6万人、1998年には10万人強に達した(図3)。2005年には入管法改正により「興行」の資格取得が厳格化し、その後同資格を持って来日する人は減少した。その一方、技能実習生や介護人材、在留資格「特定技能」を持つ技能労働者などが来るようになったことを受け、2007年には20万人、2023年には30万人を突破した。

 フィリピン人女性の来日が相次いだ時期には、日本人とフィリピン人の結婚も増えた。日比カップルの結婚件数は、1992年から2023年までの累計で18.4万件に上った。このうちフィリピン人妻の割合は97.6%を占めていた。1992年から1996年までは、フィリピン人女性は日本人男性の国際結婚相手の第1位であった。

カテゴリ: 社会
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執筆者プロフィール
鈴木美香(すずきみか) 福岡大学人文学部フランス語学科講師 1980年、東京都生まれ。父親は日本人、母親はフィリピン人。2004年、上智大学大学院外国語学研究科地域研究専攻博士前期課程(修士課程)修了。公益財団法人国際研修協力機構(現 国際人材協力機構)での勤務を経て、2010年10月から2016年12月まで在トリニダード・トバゴ日本国大使館にて、専門調査員としてカリブ10カ国の政治・外交に関する情報収集・分析業務に従事。亜細亜大学国際関係学部非常勤講師や福岡大学共通教育センター外国語講師等を経て現職。これまでにカリブ諸国の外交関係や移民問題、フィリピン人出稼ぎ労働者などについてレポートを発表。著書に『トリニダード・トバゴ-カリブの多文化社会』(論創社)、『日本の国際協力 中南米編』(共著/ミネルヴァ書房)。
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