「今週のトランプ」ラウンドアップ
「今週のトランプ」ラウンドアップ (19)

トランプ大統領の発言とアクション(7月17日~7月23日):日米関税合意「史上最大のディール」は「よい買い物」?

執筆者:安田佐和子 2025年7月26日
エリア: アジア 北米
石破首相の力点は一貫して「関税より投資」だった[米国から帰国し、首相官邸に入る赤沢亮正経済再生担当相(中央)=2025年7月24日](C)時事
トランプ大統領と政権キーパーソンから飛び出した1週間分の発言を、ストリート・インサイツ代表取締役・安田佐和子氏がマーケットへの影響を中心に詳細解説。▼5500億ドルは関税引き下げの「対価」▼避けては通れぬ財源問題▼経済安全保障で日米は「一蓮托生」

5500億ドルは関税引き下げの「対価」

 ビートルズは「金で愛は買えない」と歌ったが、関税は金で買えるらしい。少なくとも、ハワード・ラトニック商務長官によれば、そうなる。ラトニック氏は7月23日、ブルームバーグ・テレビに出演し、日本が相互関税につき4月2日時点の24%、7月7日時点の25%から15%へ引き下げられたのは、対米投資資金を5500億ドルとした「対価」と説明した。

 ドナルド・トランプ大統領は7月22日(米国東部時間)、トゥルース・ソーシャルで日米が関税協議で合意に至ったと発表した。トランプ氏が「史上最大のディール」と呼んだ主な合意内容は、前述した関税率を始め、【チャート1】の通りである。鉄鋼・アルミの関税引き下げのほか為替、防衛費引き上げなどは、合意に含まれなかった。なお、米国と日本の発表内容には適用日を始め、食い違いが存在すると日経新聞は指摘している。

【トランプ大統領、日米関税交渉合意の発表内容】
【チャート1:日米関税協議の主な合意のポイント】
出所:Donald J. Trump/Truth Social、ホワイトハウス、首相官邸、各種報道よりストリート・インサイツ作成 拡大画像表示

 トランプ氏は特に、「自分が指示した」日本による5500億ドル(約80兆円)の投資基金設立を喧伝する。前述したように、ラトニック氏はこれについて、1月に自身が考案したアイデアとした上で「関税引き下げの対価」と説明。日本は「銀行(バンカー)であり、操業者ではない」と述べ、米国内のプロジェクトの選択権、決定権、実行権は米国が持つと断言した。加えて「90%の利益が米国の納税者に、日本には10%が割り当てられる」という。

 スコット・ベッセント財務長官も7月23日、同じくブルームバーグ・テレビに出演し、日本の相互関税や自動車・部品の関税率を15%に引き下げた理由として「革新的な資金供給スキームを提供する意思を示したため」と評価した。米国内の大型プロジェクトに対して「出資や信用保証、資金提供を行うという内容だ」という。また今回の合意について、「自民党が選挙で善戦したとはいえ、(与党として)過半数を獲得できなかった。日本政府は合意への準備ができた」とコメント。選挙結果が影響した可能性を示唆していた。

 石破茂首相は7月23日に行った会見で、5500億ドルの対米投資について、医薬品や半導体など経済安全保障上、重要な分野において、日米が利益を享受できる強靱なサプライチェーン構築が狙いと語った。日本企業による医薬品、半導体、鉄鋼、造船などの重要分野での対米投資を促進すべく、政府系金融機関、つまり国際協力銀行(JBIC)による出資、融資、並びに日本貿易保険(NEXI)による保証を活用する方針だ。日米合意を取りまとめた赤沢亮正経済再生担当相は、「ジャパン・インベストメント・アメリカ・イニシアティブ」と呼ぶ。

 石破氏は、米国との交渉において一貫して「関税より投資」を掲げてきた。日本の対米直接投資額【チャート2】は、2019年から1位を走り続け、2024年には8192億ドル(約120兆円)にまで膨らんでおり、正攻法と言えよう。2月にトランプ氏と日米首脳会談を行った際、対米直接投資を「1兆ドル(約147兆円)」に引き上げる方針を打ち出したことが思い出される。

【チャート2:日本の対米直接投資額、2019年から1位を独走】
出所:米経済分析局よりストリート・インサイツ作成 拡大画像表示

 今回の対米投資額5500億ドルの達成を含め、ベッセント氏は日本が関税合意の内容を順守しているか、四半期ごとに検証すると発言した。仮にトランプ氏が履行に不満をおぼえれば、関税率は7月7日に割り当てられた25%に逆戻りするという。気になる達成までの期間だが、共同通信は日本の政府関係者の発言として、トランプ氏の在任中、つまり3年半を見込むと伝えられた。対米投資5500億ドル到達のハードルは高いようにもみえるが、対米直接投資の金額を踏まえれば、射程距離圏内と受け止められよう。

避けては通れぬ財源問題

 しかし、ここで3つの疑問が浮かぶ。

カテゴリ: 政治 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
安田佐和子(やすださわこ) ストリート・インサイツ代表取締役、経済アナリスト 世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事するかたわら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの上級主任/研究員を経て、株式会社ストリート・インサイツを設立。その他、トレーダムにて為替アンバサダー、計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員、日本貴金属マーケット協会のフェローを務める。
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