ドナルド・トランプ米大統領は、2019年に獄中で死亡したかつての友人、ジェフリー・エプスタイン元被告の亡霊に悩まされている。8月6日の晩、J・D・ヴァンス副大統領は副大統領公邸での夕食に、トランプ大統領以外の政権の主要幹部、スージー・ワイルズ首席補佐官、パム・ボンディ司法長官、トッド・ブランチ司法副長官、カッシュ・パテルFBI長官を招待した。CNNは、この会議の課題はエプスタインの少女買春についての捜査ファイル、いわゆる「エプスタイン・ファイル」を公開するかどうかなどの対応をめぐるものと報道されたが、出席者は一様に否定している。
しかし構成メンバーからみれば会合の目的はあきらかだ。エプスタインの事件ファイルの開示を拒絶したトランプ政権に対して、これまでトランプを熱狂的に支持してきたMAGA(Make America Great Again)派の一部が大きな不満を持ち、開示圧力が一向に収まらないため、戦略的対応が必要だ。MAGA派は、トランプが4件の刑事訴追を受け、そのうち1件では有罪判決を受けながらも、昨年11月の大統領選挙で再選された原動力になった。もしその一部でも、エプスタイン問題をきっかけにトランプに背を向けることになれば、来年11月の中間選挙で、共和党が下院で過半数を失い、政権がレームダック化することも十分にあり得る。経済理論を無視したトランプ関税で、米国の物価は上昇を続け、景気への悪影響も懸念されるという、そもそもの逆風も吹いている。トランプ政権にとって、エプスタイン問題に幕を引いてMAGA派の支持を維持することは最優先課題だろう。
無視できなかった「Qアノン」の影響力
エプスタインは、金融ビジネスで成功した富豪であり、交友関係には、トランプ大統領をはじめ、ビル・クリントン元大統領、英国のアンドルー王子などの政界関係者も多い著名な人物であった。2005年、14歳の少女の両親による告発を受けて警察が捜査した結果、翌2006年にエプスタインが逮捕された。エプスタインがカリブ海の米領バージン諸島に所有する島で、未成年の少女達にみだらな行為を働き、その少女達に売春させていた疑いだ。少女たちを「教育」して斡旋していたのが、エプスタインの愛人だったギレーヌ・マクスウェルであり、2020年には彼女も逮捕される。
司法取引の結果、エプスタインは、1件の買春罪だけを認め、禁錮13カ月の刑という軽いもので済んだ。しかし2018年、マイアミ・ヘラルド紙が彼の性犯罪の被害者数人を特定して報じたことで、当局が再度捜査に動き、小児性愛などの容疑で逮捕され、ニューヨークの拘置所に収監された。そして公判が始まる前の2019年8月に、エプスタインは、警備が厳重な「自殺防止房」で死亡した。自殺と判断されたが、死亡時刻の監視カメラ映像の1分間が公開されず、意図的に削除されたのではないかという憶測を呼ぶ。のちに公開された動画も編集されていたことがわかり、その死についての疑惑が広く持たれることになる。
このエプスタインの不可解な死は、エスタブリッシュメント層に不都合な事実を知っている彼を、「ディープステート(影の政府)」が口封じのために殺害したのではないかという陰謀論を流布させることになる。その重要な要素が、エプスタインが少女買春を斡旋していた顧客リストだ。
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