TICAD-9で見えてきた「日本主催」の限界と「合理化」への道筋――インドやASEANとの共催はあり得るか

執筆者:篠田英朗 2025年9月2日
タグ: 日本 国連 インド
エリア: アジア アフリカ
TICADで来日中の各国首脳夫妻らを招いた茶会で、出席者を迎えられる天皇皇后両陛下と皇族方=2025年8月22日、皇居・宮殿「春秋の間」[代表撮影](C)時事
冷戦終結後の1993年に日本のイニシアチブで始まったアフリカ開発会議(TICAD)は、これまでの9回の開催を通じてその意味合いを徐々に変化させてきた。今でも意義のある国際会議には違いないが、日本の経済力と国際的な地位は90年代より大幅に低下した。アフリカとの貿易規模で日本は中国の10分の1以下であり、トルコよりも小さい。TICADの地盤沈下を防ぐには、アジアとアフリカを結ぶインドやASEANと連携し、FOIP(自由で開かれたインド太平洋)会議として発展させることが必要だ。

 第9回アフリカ開発会議(TICAD-9)が、8月20~22日に横浜で開催された。日本でアフリカに関する事柄がニュースになることは稀だ。しかし、日本が主催者となって日本で数年に一度だけ開催する会議であることから、TICADには、それなりの関心が集まったようにも感じる。

 それにしても毎回のことだが、あらためてこの会議の目的が問い直された。具体的な成果が見えないという突き放した見方と、貴重な価値があるという指摘とがある。効果に関する疑念もあるが、やめるわけにはいかない、というのが総意ではある。

 ただ今回は特に、「JICAアフリカ・ホームタウン」交流事業が、ナイジェリア政府側で「移民」政策と受け止められていた節があったことが、大きな騒ぎを引き起こした。事実関係の整理から、イデオロギー対立の要素に至るまで、複雑な事情がありそうだ。いずれにせよ背景には、そもそもTICADが何のために実施されているのかに関する認識の不明瞭性があると言える。

 本稿では、TICADの意義を、日本外交の観点からとらえ直すことを試みる。その際、過去30年間の国際社会の変動、特に日本とアフリカの国際社会における位置づけの変化を、視野に入れていくことになるだろう。それによって今後のTICADの行方を考察する糸口を見出したい。

「援助」から「経済進出」へ:TICADの歴史と変遷

 1993年の立ち上げ時から日本が主催国となり国連が共催をする形で、1998年第2回から国連(特に国連開発計画[UNDP])、世界銀行、アフリカ統一機構(OAU)との共催になった。2003年第3回から日本政府・国連・UNDP・世界銀行・OAUの後継であるAUC(アフリカ連合委員会)の共催体制になり、現在に至っている。

「アフリカ開発のための東京国際会議」という名称で立ち上げられたが、2008年の第4回から、日本で実施の際には横浜で開催されてきている。パシフィコ横浜の巨大展示場を借り切って、テーマ別イベントと銘打った大量の付帯イベントが開催され、民間団体の展示ブースが設置されることが習慣化している。

 ただし日本とアフリカで交互に開催される仕組みともなっており、2016年第6回はケニアのナイロビで、2022年第8回はチュニジアのチュニスで開催された。そのため日本での開催は、2019年第7回以来、6年ぶりであった。

カテゴリ: 政治 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
篠田英朗(しのだひであき) 東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学大学院政治学研究科修士課程、ロンドン大学(LSE)国際関係学部博士課程修了。国際関係学博士(Ph.D.)。国際政治学、平和構築論が専門。学生時代より難民救援活動に従事し、クルド難民(イラン)、ソマリア難民(ジブチ)への緊急援助のための短期ボランティアとして派遣された経験を持つ。日本政府から派遣されて、国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)で投票所責任者として勤務。現在も調査等の目的で世界各地を飛び回る。ロンドン大学およびキール大学非常勤講師、広島大学平和科学研究センター助手、助教授、准教授を経て、2013年から現職。2007年より2024年まで外務省委託「平和構築人材育成事業」/「平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業」を、実施団体責任者として指揮。著書に『平和構築と法の支配』(創文社、大佛次郎論壇賞受賞)、『「国家主権」という思想』(勁草書房、サントリー学芸賞受賞)、『集団的自衛権の思想史―憲法九条と日米安保』(風行社、読売・吉野作造賞受賞)、『平和構築入門』、『ほんとうの憲法』(いずれもちくま新書)、『憲法学の病』(新潮新書)、『パートナーシップ国際平和活動』(勁草書房)など、日本語・英語で多数。
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