「日韓関係の重要性というのは、今、一層増している」、「これまでの政権の間で築かれてきました日韓関係、この基盤に基づきながら、日韓関係を未来志向で安定的に発展させたい1。」高市早苗首相は就任会見でこう力強く述べた。韓国内では高市首相になり日韓関係が悪化するのではとの懸念がある一方、韓国を重視した外交を進めてくれるのではとの期待もあるが、との記者からの質問に対する答えである。懸念の理由は、高市首相の保守的な政治信条とこれまでの靖国神社への定期的な参拝であり、期待の根拠となっているのは、現在の厳しい国際情勢に対応するため日本と韓国の協力は両国にとって選択ではなく不可欠の要請になっている、との見方である。
それでは、日韓協力に対する期待を現実のものとしていくためにはどうすれば良いのであろうか。日韓両国が位置するインド太平洋地域の諸課題を念頭に、今後の協力のあり方を検討してみる。
対等なパートナーとなった日本と韓国
1965年の国交正常化から60年を経て、日韓両国は今や対等なパートナーシップを形成するに至った。かつて、日韓間での協力といえば日本による対韓国経済協力のことであり、1970年代から80年代に行われた日韓定期閣僚会議は、もっぱら韓国による日本への経済協力の要請を議論する場であった。
それから時を経て、現在の日韓両国は、国際社会の平和と安定、そして繁栄のために共に協力するパートナーとなった。2008年4月の日韓首脳会談後に発表された「日韓共同プレス発表」は、両国が「国際社会に共に寄与していくことにより、両国関係を一層成熟したパートナーシップ関係に拡大」していくことを謳った。この頃、韓国は「グローバル・コリア」というスローガンを掲げて国際的地位の向上を目指していたこともあり、日韓協力の機運は高まっていた。
しかし、2012年以降は慰安婦問題や元徴用工問題による両国の対立が深まり、日韓協力は「失われた10年」とも言える時期を経験した。その後、2022年に韓国で尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が発足し、翌23年に元徴用工問題での第3者弁済という解決策を決断したことで、日韓関係は急速に改善すると共に新たな協力の時代を迎えることとなった。尹政権が22年末に発表した「インド太平洋戦略」は日本の「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)と共鳴し、日韓両国が国際社会で協力できる可能性が再び広がったのである。
そして、2023年8月キャンプデービッドでの日米韓首脳会談と共同声明は、日韓が協力を進めるための基盤を提供した。この共同声明において、日韓両国は同盟国である米国と共にインド太平洋地域での協力を深めていくことで合意し、それを実行に移してきた。
日米韓3カ国の協力をリードしてきた米国でトランプ政権が発足したことで、日米韓協力の変容が予想されてはいるが、日韓はこれまで以上に国際情勢への対応で連携を深めると同時に、引き続き米国がインド太平洋地域に建設的に関与し続けるように働きかけることが求められている。
日韓の求心力となる厳しい国際情勢
冒頭で記した通り、韓国内では高市・李在明(イ・ジェミョン)政権下の日韓関係を不安視する見方が多いが、米中戦略競争の深刻化、北朝鮮の核・ミサイル能力の高度化、ロシアによるウクライナ侵略の長期化と北朝鮮の派兵、さらには中朝露3カ国連携の可視化という情勢は、引き続き日韓両国を近づける求心力として作用している。
「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。
