韓国で2024年12月に出された非常戒厳を巡り、内乱首謀罪に問われた尹錫悦前大統領に対し、ソウル中央地裁が2月19日、無期懲役の判決を言い渡した。戦時でも「国家非常事態」でもない中で戒厳令を発令し、国会に軍隊を投入した行為について、憲法秩序の破壊を目的とした暴動に当たるとし、刑法上の内乱罪が成立すると結論づけた。
特別検察は死刑を求刑していたが、計画は綿密さを欠き流血の事態も起きなかったことなどから、無期懲役となった。尹氏は戒厳令を「野党の不正に世間の目を向けるための象徴的な行為だった」として無罪を主張しており、判決を不服として控訴した。今後の舞台は高裁へと移ることになる。
こうした中、物議を醸しているのが、無期懲役の判決に対する評価だ。死刑を回避したことへの批判は根強く、尹氏に恩赦を与えることを禁止すべきだとの議論も起きている。
2つの「不適切」
判決直後の2月20~21日にかけて、韓国の民間機関「エブリリサーチ」が行った世論調査によると、尹氏への無期懲役について「不適切」とする回答が61.3%で、「適切」の31.5%に倍近くの差をつけた。世代別でも、すべての年代で「不適切」が「適切」を上回っている。
注意しなければならないのは、この「不適切」という評価には2つの見方があるということだ。一つは「無期懲役は軽すぎる」、もう一つは「無期懲役は重すぎる」であり、完全に正反対の考えとなっている。
「軽すぎる」というのは、内乱首謀の法定刑は死刑か無期懲役、無期禁錮とされていることから、尹氏には求刑通り、最高刑の死刑を科すべきとの意見だ。世論調査のデータを見ると、現在の与党である革新系政党「共に民主党」の支持者のうち、57・5%が「不適切」と回答しており、それがここに該当する。
これに対して尹氏の属していた保守系野党「国民の力」の支持者は76・0%が「不適切」と回答している。この中には尹氏の無罪主張を支持する人から、戒厳令の責任は認めながらも量刑は厳しすぎるという人までの意見が含まれているとみられるが、いずれにせよ「重すぎる」という点では共通している。
ここで注目したいのが、尹氏の無期懲役判決を「軽すぎる」とし、死刑を科すべきと考える人たちだ。世論調査では「共に民主党」の支持率は4割台で推移しており、2割台で低迷する「国民の力」を大きく引き離している。それだけに、尹に死刑を科すべきとの世論は一定程度の広がりを持っていると考えるべきだろう。共に民主党の国会議員も、相次いで無期懲役の判決を批判している。
だが、今後仮に尹氏への死刑判決が出されたとしても、それは象徴的な意味でしかない。韓国は「事実上の死刑廃止国」となっており、実際に執行されるとは考えられないからだ。
1997年から死刑執行なし
韓国では、金泳三政権末期の1997年12月30日に23人という大量執行をして以来、死刑の執行はなされていない。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、死刑が10年以上執行されておらず、執行をしない政策や確立した慣習を持っていると考えられる国を「事実上の死刑廃止国」としており、韓国もここに分類されている。死刑囚は執行がないまま長期間、拘置所や刑務所に収容されており、事実上の終身刑の状態となっているのだ。
法的には死刑制度が存在し続けているため、1998年以降も死刑判決は出されており、2025年末現在で57人(軍事裁判で死刑判決が下された4人を含む)の死刑囚がいる。ただし、死刑の確定判決は減少傾向にある。韓国国会の資料によると、1998年から2007年にかけては毎年2~9人の死刑確定者が出ていた。だが、その後はゼロの年が目立つようになり、2016年以降で死刑確定者は出ていない。
韓国の法務省に、死刑制度への考えについて書面で質問したところ「韓国は死刑を合憲的に維持しており、いつでも執行できる」としながらも、実際の執行には「死刑廃止への社会的議論や国民世論、国際状況を総合的に考慮して判断すべき」と述べている。死刑制度の存廃については「死刑の刑事政策的機能、国民世論や国内外の状況などを総合的に検討し、慎重にアプローチする」とも回答している。そこからは、死刑制度を維持しつつも、死刑再開には極めて消極的な姿勢がうかがえる。
金大中氏の存在感
死刑制度があるにもかかわらず、韓国が死刑を30年近く執行せずにいる背景には、金大中元大統領の存在が大きい。
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