ハンガリー「マジャル新政権」は親EU・親ウクライナへ傾くのか?(下)

執筆者:石川雄介 2026年5月1日
タグ: EU
エリア: ヨーロッパ
オルバーン政権とその与党フィデスはウクライナを事実上の「敵対国家」と位置づけてきた[総選挙前日、ウクライナのゼレンスキー大統領とマジャル氏を非難するプラカードを掲げたフィデス支持者=2026年4月11日、ハンガリー・ブダペスト](C)Krisztian Elek / SOPA Images via Reuters Connect
ハンガリーの世論調査は、ウクライナへの否定的なイメージがロシアに対する否定的イメージを上回る傾向を示している。旧政権はティサ党について「親ウクライナで戦争へと導く危険な政党」と訴えたが、ティサの対ウクライナ政策は国民感情も踏まえたものになるだろう。もっとも、ティサはウクライナのEU加盟を否定しない。党綱領ではロシアを「侵略者」と明確に位置づけ、マジャル党首はロシアを安全保障上の「脅威」と明言している。対米関係と対中関係においては、政治的・思想的な連携よりも経済などプラグマティックな側面が前面に出る可能性がある。

 

対ウクライナ関係:「親ウクライナ」ではないティサ

 オルバーン政権は、2014年以降のウクライナによる言語政策に反対するなど、同国との対立を深めてきた。2022年にロシア・ウクライナ戦争が勃発して以降、オルバーン政権は国内における権力維持の手段としてウクライナを事実上の「敵対国家」と位置づけてきた。当初は反EUの議論に組み込む形で、ウクライナを腐敗国家あるいは破綻国家として描き出し10、今回の選挙戦においては、『Autocracy, Inc.』の著者であるアン・アプルボームが指摘するように、「ハンガリーをウクライナの植民地にはさせない」といった、実在しない「敵」への恐怖を煽る手法を積極的に採用した11。こうしたオルバーン政権の言動に対し、ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領が「(オルバーン首相の)所在地を軍に伝える」と脅迫とも受け取られかねない発言を行ったことは、日本でも大きく報じられた。

 マジャル新政権の発足によって、どのような変化が見込まれるのだろうか。

 選挙戦において、オルバーン政権はティサを「親ウクライナで戦争へと導く危険な政党」というように位置づけてきた。しかし、こうしたフレーミングとは異なり、ティサは必ずしも親ウクライナ一辺倒の立場をとっているわけではない。党の綱領においても、ウクライナへのハンガリー軍の派遣やウクライナのEUへの早期加盟には反対する旨を明記している。

 ハンガリーの独立系シンクタンクであるPolicy Solutionsの調査によれば、ウクライナに対して否定的なイメージを持つ国民の割合は71%に上り、ロシアに対して否定的なイメージを持つ割合(68%)を上回っている12。ウクライナ支援の態度を曖昧にすることでオルバーン政権による政治争点化をなるべく避けるという目的のほかに、マジャル党首はこうした国民感情も踏まえて対ウクライナ政策を判断しているものとみられ、政権が交代したからといって、必ずしもポーランドやバルト三国のようにウクライナ支援に積極的になることを意味するわけではない。

 もっとも、オルバーン政権がほぼ全面的にウクライナに対する支援やそのEU加盟に反対してきたのに対し、ティサはウクライナのEU加盟の権利そのものを否定しているわけではない。EU加盟について、マジャル党首は、加盟が「現実的な問題となった場合は、国民投票で決定する」と2026年4月13日の記者会見にて述べている13。オルバーン政権が選挙前に拒否権を行使してきたウクライナへの財政支援についても、マジャル党首は「すでにEUで決定されたことだ」として拒否しない意向を示している14。こうした言動を踏まえると、マジャル新政権のハンガリーは、これまでのように(ほぼ)全面的にウクライナ支援に反対するのではなく、交渉のテーブルにはつきながら、是々非々で判断していく可能性が高いといえよう。

対ロシア・対米関係:欧州における「看板人物」15を失ったトランプとプーチン

 オルバーン政権はロシアによるウクライナ侵略に対してしばしば曖昧な姿勢をとってきた。ロシアに停戦を求めるのではなく、むしろウクライナやEUに対し、戦闘の継続やウクライナへの支援を批判する発言を繰り返してきた16。対ロシア制裁についても反対の意を繰り返し表明してきた。今回の選挙戦では、ハンガリーの独立系メディアVSquareによって、シーヤールトー・ペーテル外務貿易相がロシアのセルゲイ・ラブロフ外相にEUの機微情報を漏洩していた疑惑が報じられ、国内外で物議を醸した17。これに対し、ティサ党は綱領においてロシアを「侵略者」と明確に位置づけ、ウクライナの領土保全への支持を表明している。ロシアに対する脅威認識も大きく異なっており、4月13日の記者会見で、マジャル党首はロシアを安全保障上の「脅威」であると明言している。

 また、オルバーン政権はロシアへのエネルギー依存をスロバキアとともに堅持してきたが、ティサはこれについてもリスクであると綱領に明記する。また、経済開発・エネルギー担当相に就任予定のカピターニは、2026年2月の党の綱領に関するティサ幹部による記者会見において、2035年までにエネルギー供給の多様化を通じてロシア依存を解消する方針を掲げている18。綱領においては、ロシア製の「PAKS II」原発の新規増設については中止する予定はないものの、「核燃料をロシアではなく、例えばフランスやアメリカなどから調達する可能性を検討する」としており、すぐにとはいかないかもしれないが、ロシアへのエネルギー依存を中長期的に削減する意向があることは確かであろう。

 これまでハンガリーとともに対ロシア制裁への慎重姿勢やエネルギー依存の維持に傾いてきたスロバキアにとって、単独で反対を貫くことは容易ではない。同時に、オルバーン首相の退陣により、ロシアの立場をEU内で代弁することも難しくなった。この点について、外交問題評議会(CFR)のリアナ・フィックスらは、「オルバーン政権の崩壊はヨーロッパにとって新たな扉を開く一方で、ロシアにとっては新たな扉を閉ざすことになる」と論じている19

 対米関係においては、オルバーン政権はCPAC(保守政治活動会議)やシンクタンクとの連携、さらにはJ・D・バンス副大統領をはじめとする米国共和党政治家との関係構築を通じて、ハンガリーを保守思想の「知の拠点」として位置づけ、トランプ政権との緊密な関係を築こうとしてきた20。すなわち、伝統的な家族観や主権主義などについて自由に議論できる場として自国を演出してきたのである。選挙戦においては、3月に開催されたCPACハンガリーで米国政府高官の訪問は実現しなかったものの、総選挙直前の4月7日から8日にかけてバンス副大統領のハンガリー訪問が実現した。

 バンス副大統領のハンガリー訪問やCPACハンガリーに対して、マジャル党首は批判的な立場をとっている。まず、バンス副大統領の訪問について、次のように批判する。

「いかなる国も、ハンガリーの選挙に干渉してはならない。ここは私たちの国だ。ハンガリーの歴史は、ワシントンやモスクワ、あるいはブリュッセルで書かれるものではない21

 また、ハンガリーでのCPACについても、CPACの同国での実施については「問題ない」としつつも、政府からの資金拠出には否定的な立場を示し、「フィデスかオルバーン氏の周辺から拠出されるべきだ」と4月13日の記者会見にて批判している。

 もっとも、マジャル党首は昨年11月のSNS投稿において、ドナルド・トランプ大統領について「好き嫌いは別として、生まれながらのリーダーだ」と評価している。また、米国との経済関係についても、前述の記者会見で次のように述べ、関係強化への意欲を示している。

「米国は我が国にとって最も重要な同盟国であり、経済パートナーの一つ。ティサは両国関係をさらに発展させるためにトランプ政権と協力する用意がある」

 トランプ大統領も、マジャル党首について「良い仕事をすると思う。良い男だ」と期待の意を表明しており、経済的な連携は強化していくことが予想される。しかし、保守思想面での連携は弱まる可能性が高い。

対中国関係:経済関係は維持

 オルバーン政権は、「金も口も出す」EUに対して「金は出すが口はださない」中国を歓迎し22、中国の一帯一路構想のもとでインフラ投資や企業進出を積極的に受け入れてきた。セルビアとの高速鉄道の建設や中国系EV(電気自動車)」関連企業の誘致はその代表例であった。

 こうした路線に対してのティサの対中政策は明確でない点も多い。ティサ党は中国との政治的関係についてはあまり多くを語っておらず、ロシアと異なり選挙戦でも争点とはならなかった。専門家の分析としては、ブダペスト・コルヴィヌス大学のマトゥラ・タマーシュ(Matura, Tamás)が、マジャル新政権の民主主義へのコミットメント等を背景に、ティサへの政権交代は「中国にとって、何らかの政治的支援を失うことを意味することになるだろう」と推測している23

 他方、経済的関係については、マジャル党首や党幹部の発言を通じて、中国とのこれまでの緊密な関係からプラグマティックな関係への変化を示唆する発言が徐々に増えている。

 例えば、副首相および外交担当の閣僚に就任予定のオルバーン・アニータは、今年1月の党首との対談において、中国との関係を「現実的かつ互恵的な関係」へと再定義する姿勢を示している。マジャル党首の4月13日の記者会見でも、中国を「世界で最も重要で、最も大きく、最も強い国の一つだ」と評し、中国からの投資を前向きに捉えつつも、「明確な条件」によって判断するとした。

 これはどういうことを意味しているのだろうか。党の綱領を改めて読んでみると、以下の3点が注目される。

・現在のハンガリー経済は工場系の産業への依存が強く、外資進出企業に対する環境規制は不十分

・外資に対してはハンガリー人の雇用と国内サプライヤーの関与を求める

・国内の中小企業を海外展開含めて支援する

 マジャル党首は2024年以降の政治活動において、中国企業の進出が必ずしも国内雇用の創出につながっていない点24や、韓国大手サムスンの工場を代表例としてEV工場の環境汚染問題について繰り返し批判してきた25。このことを踏まえると、マジャル新政権は、中国との経済関係自体は維持しつつも、投資受け入れに際しては現地雇用の創出や環境規制の遵守といった条件をより厳格に求め、従来以上に国内利益への還元を重視する方向へとシフトする可能性が高い。

ティサ≒2010年のフィデス?

 第二次オルバーン政権発足直後の2011年、当時のマルトニ・ヤーノシュ外相(シーヤールト外相の前々任)は、ハンガリーの外交政策を「欧州・大西洋志向」と位置づけ、国連憲章やEU条約に基づく価値を重視する方針を掲げていた26。しかし、その後、とりわけ2014年にシーヤールト外務貿易相が就任して以降、東方開放政策を通じてロシアや中国との関係を強化する方向へと舵が切られていった。ティサ党が掲げる政策を踏まえると、その外交方針は、必ずしも全く新しいものというよりも、2010年代初頭のハンガリー外交への「回帰」として理解することができるのかもしれない。

 もっとも、当時と現在とでは国際環境は大きく異なる。ロシアによるウクライナ侵略に加え、中東情勢の緊張の高まりなど、国際政治は不安定化している。経済面でも、リーマン・ショック後に比較的安定していた2010年代半ばから後半と比べ、ハンガリーを取り巻く状況は厳しさを増している。仮に2010年代前半のフィデスと同様の路線を採ったとしても、マジャル新政権の制約はより重いものとなるだろう。

 こうした環境の下で、マジャル新政権はどこまで現実的な舵取りができるのか。政権交代を成し遂げた今、ティサの実務能力が問われている。

 

10 Yusuke Ishikawa and Oszkár Roginer-Hofmeister. “Orbán in the Public Eye: Anti-Ukraine Argument for Delegitimising Brussels,” EUROPEUM Institute for European Policy, December 1, 2025.  

https://instituteofgeoeconomics.org/en/research/2026013101/ 

11 Anne Applebaum. “The First Post-Reality Political Campaign,” Atlantic, March 27, 2026. https://www.theatlantic.com/ideas/2026/03/hungary-first-post-reality-political-campaign/686565/ 

12 “The World Through Hungarian Eyes - Foreign Policy Attitudes in Hungary in 2025,” Policy Solutions, December 28, 2025. https://www.policysolutions.hu/userfiles/elemzes/378/policy_solutions_the_world_through_hungarian_eyes_2025.pdf 

13 2026年4月13日記者会見 “Nemzetközi sajtótájékoztató” より。以下、4月13日の記者会見による記述とした箇所は、すべて同会見に基づく。https://www.youtube.com/watch?v=6WvjfTsBlZ4 

14 藤原学思「ハンガリー次期首相、900億ユーロのウクライナ融資反対しない方針」(朝日新聞、2026年4月14日)https://www.asahi.com/articles/ASV4F7F3WV4FUHBI025M.html 

15 Christian Edwards. “Trump and Putin just lost their ‘poster boy’ in Europe. What now for Hungary?,” CNN, April 14, 2026. https://edition.cnn.com/2026/04/14/europe/orban-hungary-trump-putin-magyar-intl 

16 “PM Orbán: US pursuing peace initiatives while European leaders opt to continue the war; Ukraine’s actions toward Hungary are hostile,” About Hungary, February 20, 2026. https://abouthungary.hu/news-in-brief/pm-orban-us-pursuing-peace-initiatives-while-european-leaders-opt-to-continue-the-war-ukraines-actions-toward-hungary-are-hostile 

17 Wojciech Cieśla et al. “Kremlin Hotline: How Hungary Coordinates With Russia Blocking Ukraine from the EU,” April 8, 2026, https://vsquare.org/kremlin-hotline-how-hungary-coordinates-with-russia-blocking-ukraine-from-the-eu/ 

18 2026年2月7日の党記者会見 “A működő és emberséges Magyarország alapjai - programbemutató”より。https://www.youtube.com/watch?v=fhh1hnU6yus

19 Liana Fix and Benjamin Harris. “Orbán’s Fall in Hungary Opens a Door for Europe — and Closes One for Russia,” Council on Foreign Relations, April 13, 2026. https://www.cfr.org/articles/orbans-fall-in-hungary-opens-a-door-for-europe-and-closes-one-for-russia 

20 石川雄介「保守派の国際的「知の拠点」を目指すハンガリー」(フォーサイト、2024年12月25日)https://www.fsight.jp/articles/-/51110 

21 https://x.com/magyarpeterMP/status/2041412324389450041 

22 山野井茜「外交・国際 ハンガリー総選挙の衝撃 : 与党フィデス圧勝の要因と今後」『金融財政ビジネス』2018年5月10日 (第10739号)、16-19。https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2018/06/global_1806_2.pdf 

23 “Orban on the brink: could Hungary’s election dent China’s influence in Europe?,” South China Morning Post, April 6, 2026. https://www.scmp.com/news/china/diplomacy/article/3349109/orban-brink-could-hungarys-election-dent-chinas-influence-europe 

24 山野井茜「欧州EV産業を巡る地政学:ハンガリーに見る中国資本誘致と予期せぬ代償」『国際金融』2025年8月号、https://www.murc.jp/library/report/cr_250813/ ; “Magyar Péter Szegeden a BYD épülő elektromosautó-gyárát támadta,” Magyar Nemzet, March 4, 2025, https://magyarnemzet.hu/belfold/2025/03/magyar-peter-szegeden-a-byd-epulo-elektromos-autogyarat-tamadta 

25 Edit Inotai. “Battery Makers: A Toxic Debate in Hungary's Election,” Balkan Insight, February 23, 2026, https://balkaninsight.com/2026/02/23/battery-makers-a-toxic-debate-in-hungarys-election/rd/ 

26 “Hungary's Foreign Policy after the Hungarian Presidency of the Council of the European Union” https://2010-2014.kormany.hu/download/d/cb/60000/foreign_policy_synapse_20111219.pdf 

 

 

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
石川雄介(いしかわゆうすけ) 公益財団法人国際文化会館 アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)/地経学研究所 研究員 兼 デジタル・コミュニケーション・オフィサー。1995年名古屋生まれ。明治大学政治経済学部卒、英国サセックス大学大学院修士課程(汚職とガバナンス専攻)修了、ハンガリー・オーストリア中央ヨーロッパ大学大学院修士課程(政治学)修了。トランスパレンシー・インターナショナルのハンガリー支部でのリサーチインターン、APIでのインターン(福島10年検証プロジェクト)及びリサーチ・アシスタント(CPTPP・検証安倍政権プロジェクト)等を経て現職。埼玉学園大学経済経営学部 非常勤講師(秋学期担当)、国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナル(TI)外部寄稿者も兼職。専門は、ヨーロッパ比較政治、現代日本政治、政策過程論、ガバナンス、教育と政治、反汚職政策。主な著作に『偽情報と民主主義:連動する危機と罠』(共著、地経学研究所、2024年)、『EU百科事典』(分担執筆、丸善出版、2024年)、Routledge Handbook of Anti-Corruption Research and Practice(分担執筆、Routledge、2025年)、『目にする情報の半分以上が偽・誤情報になる 情報安全保障の新論点』(共著、星海社新書、2025年)などがある。
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