東日本をおそった大震災による「戦後最大の危機」とされた状況のなかで、政治がいよいよ迷走している。被災地の復興のためにすべての力を結集すべきその瞬間に、不毛な権力闘争のあげくに自壊への道を進む政治に対し、国民の絶望は深まるばかりである。 内閣不信任案こそ否決されたが、震災復興より政争を優先する人々には次の前提がなければならないはずであった。 第1は、現在の苦境の原因はもっぱら菅直人首相個人にあり、首相さえ交代すれば事態の大幅な改善が期待されること、第2は、菅首相よりも明らかに優れた指導者が次に控えており、直ちに政権について政策を実行する準備があることである。少なくともこの2つの前提がみたされない限り、今回の政争は正当化できないはずである。 しかしながら、第1の前提については議論の余地が大いにあるし、第2の前提にいたっては、新たな指導者の名前すらあがってこない。政治に権力闘争がつきまとうのは必然としても、どのような状態を目指して争っているのかさえわからないというのでは、政治の自滅行為という以外に表現が見当たらない。

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