東京電力・福島第一原子力発電所が、周辺地域に大量放出した放射性物質による被曝が「ただちに健康に影響はない」根拠として、東電と政府は、国際放射線防護委員会(ICRP)の示す国際基準を繰り返し挙げている。これは明らかな誤用、誤解である。 ICRP勧告が示す被曝線量限度は、それ以下なら安全・安心という個人を守る「健康基準」ではない。為政者、事業者、管理者が、作業員や一般公衆にどれだけのリスクを強いても許されるかという、「受忍の限度」を示す基準である。しかも、その数値については、最新の科学的検討が反映されておらず、事業者寄りのバイアスがかかっているとして、科学性と合理性の両面に強い批判があることも、日本国内ではあまり知らされていない。こと原子力に関する限り、国際機関への無条件の信頼は、かえって危機を増幅させる。

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