『台湾海峡 一九四九』に見る日中台の歴史の傷口

執筆者:野嶋剛 2012年7月26日
エリア: アジア

 台湾に龍應台(ロン・インタイ)という名前の女性作家がいることを知ったのは20年ほど前だった。筆者は台湾の大学に留学していたのだが、同じ年代の台湾人学生たちが競って彼女の作品を手に取り、論じ合っていたからだ。
 1985年、30代で無名だった彼女が著した「野火集」というコラム集は、国民党の独裁体制の欠陥を鋭く射抜き、同書は題名のごとく台湾社会を焼き尽くしながら大ベストセラーとなった。彼女は当時の台湾社会において、紛れもなくひとつのイコン(偶像)だった。
 以来20年以上にわたり、龍應台は台湾、香港、そして中国大陸の中華文化圏で最も影響力のある作家の1人として活躍してきた。2006年、中国共産主義青年団(共青団)の機関紙「中国青年報」の付属紙「氷点週刊」が、歴史認識をめぐり停刊処分を受けた事件では、中国の胡錦濤国家主席にあてた公開書簡「文明で私を説得して欲しい」で話題を呼んだ。その龍應台が2009年10月、満を持して発表した大作が「大江大海 一九四九」(天下雑誌社)だった。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
野嶋剛(のじまつよし) 1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)、『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)など。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『香港とは何か』(ちくま新書)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com
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