台湾に龍應台(ロン・インタイ)という名前の女性作家がいることを知ったのは20年ほど前だった。筆者は台湾の大学に留学していたのだが、同じ年代の台湾人学生たちが競って彼女の作品を手に取り、論じ合っていたからだ。
1985年、30代で無名だった彼女が著した「野火集」というコラム集は、国民党の独裁体制の欠陥を鋭く射抜き、同書は題名のごとく台湾社会を焼き尽くしながら大ベストセラーとなった。彼女は当時の台湾社会において、紛れもなくひとつのイコン(偶像)だった。
以来20年以上にわたり、龍應台は台湾、香港、そして中国大陸の中華文化圏で最も影響力のある作家の1人として活躍してきた。2006年、中国共産主義青年団(共青団)の機関紙「中国青年報」の付属紙「氷点週刊」が、歴史認識をめぐり停刊処分を受けた事件では、中国の胡錦濤国家主席にあてた公開書簡「文明で私を説得して欲しい」で話題を呼んだ。その龍應台が2009年10月、満を持して発表した大作が「大江大海 一九四九」(天下雑誌社)だった。
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