インテリジェンス・ナウ

中東大物スパイたちの明暗――CIAとの関係がカギに

執筆者:春名幹男 2012年10月16日
エリア: 中東 北米

「アラブの春」で独裁政権が次々と打倒された中東・北アフリカ。この春以降、これらの地域の主要国で、情報機関トップの交代や元トップの逮捕などが伝えられている。米中央情報局(CIA)に協力した元大物スパイには、出国後平穏な暮らしを保障され、米国で最高級の医療を受けた者もいる。CIAはなおこれら諸国で影響力を行使しているのだろうか。

カダフィ亡き後のリビアでは……

カタールの首都ドーハ在住と伝えられるクーサ元リビア対外情報機関長官 (C)AFP=時事
カタールの首都ドーハ在住と伝えられるクーサ元リビア対外情報機関長官 (C)AFP=時事

 リビアの独裁者「カダフィのブラックボックス」とも呼ばれ旧政権の暗部を熟知するといわれるアブドラ・サヌーシ容疑者(62)が3月16日、モーリタニアの首都ヌアクショットの空港で逮捕された。サヌーシ容疑者は旧カダフィ政権の軍事情報機関のトップ。国際刑事裁判所(ICC)は、反体制派に対する武力弾圧を「人道に対する罪」として逮捕状を発給、フランスの裁判所は航空機爆破でフランス市民54人を殺害した罪で本人不在のまま有罪判決を出していた。  オランダかフランスへの移送か、と話題になっていたが、モーリタニア政府は半年後の9月5日、サヌーシの身柄をリビア政府に引き渡した。「国家のプライドとして自国で裁く」とモーリタニア側に身柄引き渡しを要求していたリビア政府の外交的勝利となった。  リビアの独裁者カダフィ大佐の次男セイフ・イスラム容疑者も、ICCに引き渡さず、リビア国内に拘留している。  サヌーシ容疑者と明暗を分けたのは、昨年3月の混乱時に外相を辞任して出国、事実上英国に亡命したムーサ・クーサ元リビア対外情報機関長官(年齢は65-66歳)。  クーサ氏は米ミシガン州立大学卒業後、駐英大使などをへて、カダフィ大佐の側近の1人として、1994-2009年対外情報機関長官。その後外相を務めていた。  英国亡命後、リビア政府によるテロ事件などへの関与を指摘されたため出国、現在カタールの首都ドーハ在住と伝えられる。ブッシュ前米政権時代、リビアの核開発放棄で協力。リビアに移送されたテロ容疑者の尋問を引き受けるなど、CIAに協力したこともあってか、何の罪にも問われておらず、平穏な老後を送っている。カタールは親米の国で安全な生活を保障されているとみていいだろう。

カテゴリ:
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
春名幹男(はるなみきお) 1946年京都市生れ。国際アナリスト、NPO法人インテリジェンス研究所理事。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授、早稲田大学客員教授を歴任。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『米中冷戦と日本』(PHP)、『仮面の日米同盟』(文春新書)などがある。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top