クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

サダムより難題 東アジアの独裁者

執筆者:徳岡孝夫 2007年1月号
エリア: 中東 アジア

 民主主義は、政治から詩を奪った。古代ローマの独裁者ジュリアス・シーザーは、生前すでに文句の付けようない英雄で、元老院で刺されて死んだ死に方もまた英雄的だった。 秦の始皇帝は、隣国すべてを滅ぼし、書を焼き学者を生きながら埋めた。東海の蓬莱山に不死の薬を得んと欲して果たさず、巡幸中に病没した。彼の生死には、太陽の昇って沈むに似た威容がある。 不慮の死と病死を問わず、独裁者の最期は、詩にして朗唱するに足る。人間一人ひとりの賢愚貴賎に目をつむり、一人を一票に還元してしまい、頭数によって決める民主主義の指導者は、詩にならない。元総理大臣や引退して牧場主になる大統領など、みな散文的で退屈な生涯を送って終わる。見ていて少しも感動しない。

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執筆者プロフィール
徳岡孝夫(とくおかたかお) 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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