民主主義は、政治から詩を奪った。古代ローマの独裁者ジュリアス・シーザーは、生前すでに文句の付けようない英雄で、元老院で刺されて死んだ死に方もまた英雄的だった。 秦の始皇帝は、隣国すべてを滅ぼし、書を焼き学者を生きながら埋めた。東海の蓬莱山に不死の薬を得んと欲して果たさず、巡幸中に病没した。彼の生死には、太陽の昇って沈むに似た威容がある。 不慮の死と病死を問わず、独裁者の最期は、詩にして朗唱するに足る。人間一人ひとりの賢愚貴賎に目をつむり、一人を一票に還元してしまい、頭数によって決める民主主義の指導者は、詩にならない。元総理大臣や引退して牧場主になる大統領など、みな散文的で退屈な生涯を送って終わる。見ていて少しも感動しない。

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