日本語をほとんど解さない私を一年間客員教授として迎え、学部生と大学院生を任せてくれた東京芸術大学音楽学部の「勇気」に、まずは感謝したい。 幸運であり、同時に悩ましくもあったのは、教える科目が「芸術」だったことだ。美術史を教えるなら話は別だが、そもそも芸術とは何であるか、定義さえ難しいものを教えようというのだ。芸術は科学ではないし、必ずしも知的活動や努力の成果である必要もない。芸術は「起こる」ものである。 絵画や彫刻といった技術なら、ある程度教えることはできる。しかし、現代の芸術はインスタレーション(展示)やメディアアートなどあらゆる領域に広がっている。それを教えることなど可能なのか? 成績をつけることはできるのか? こうした疑問が湧くのは当然だ。
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