市川崑の「東京オリンピック」もいい映画だったが、戦前少年の胸に残るのはヒトラーの恋人レニ・リーフェンシュタールが撮った「民族の祭典」である。一九三六年ベルリン五輪の記録映画で、いまの若者が見ても、民族主義者になって映画館から出てくることだろう。 来年の北京オリンピックも、一大感動巨篇になるはずである。ここに北京あって天下に君臨す! 大革命、大躍進、大虐殺と何にでも大を付けるmegalomania(誇張癖)の国だから、映画も中華帝国の偉大さに嬉し涙がこぼれるものに違いない。 だが私が期して待つのは感動的な開会式ではなく、その前すなわち聖火リレーである。

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